暗い夜でありました。一人の旅人が道を急いでおりました。旅人は女の人でありました。夜にならぬうちに峠を越えなければと思っていたのですが、女の人の足ではそうもならず、とうとう夜になってしまいました。
峠に向かう道はだらだら坂になっています。人家が途切れ、道は少しせまくなりました。両わきの山は、それほど深くはありませんでした。雑木林といった方が適当でした。それでも、一人旅の峠越えは気分のいいものではなく、自然と足が速くなりました。そのころからお腹が痛みだしました。急いだせいかも知れませんでした。道はここで三差路になり、本道に通じる道のようでした。
お腹の痛みが増してきました。歩くのが苦痛になってきました。やはり休まなければなりませんでした。すると道端に腰かけるにちょうどいい石が、暗闇にうっすら見えました。旅人は歩みを止めると、そこに腰をおろしました。その時、お腹の痛みが急に大きくなりました。ひと気のない山中、介護を求めることなど思いもおよびませんでした。苦しみ、痛みは内臓をえぐりました。旅人は痛みの中で、自分の意識がうすれていくのを知りました。これ以後、旅人が休んだ側の石からうめき声が聞こえました。旅人の姿は、どこに消えたか行方が知れませんでした。
夜な夜な石が発するうめき声は、何とも不気味な石として里人に恐怖の念をいだかせました。昼間でさえ、子どもは近づくことをしませんでした。どうかすると、通行人も不安を感じて引き返すこともありました。
大任から川崎へと抜ける峠に安永峠という所があります。この峠に通じる別道の道端にうめき石があります。(石の所在が安永の梅木という)それと知って、たずねて行っても容易に分からないでしょう。すぐそばにゴルフ場があります。
昭和四四(一九六九)年、道路の改修が行なわれ、石を動かしたところ、この付近で交通事故が相次ぎ、この石のたたりとして恐れているそうです。
町にはほかにも石や岩の言い伝えがあります。
米かみ岩(安永・やすなが)
チンショキの石(成光・なりみつ)
龍神様の願石(向田・むかいだ)
願石は道の駅近くの出雲神社向かい「松長龍神」にあります。叶うかどうかが重さで分かるそうです。詳しくは「松長龍神」を訪ねてください。