「おい相棒、そろそろフトコロ具合が寂しくなってきたのう」「おう、ここらで何かして稼がなのう」と二人の旅人が話しながら弁城付近を通っていると、「吉右衛門谷の上のほうにキツネがたくさんおって、悪さするちなあ」「そらそうと、キツネはネズミの天ぷらが大好物ち聞いたけんが、ホントやか」という村人たちの話し声が聞こえてきました。「相棒、いい話を聞いたのう」「何のことか」「今、村んもんが言いよっちょろが。キツネはネズミの天ぷらが好物ち、金儲けができるばい」「どげんするんか」「いいちゃ、まかしちょけ」そのような会話の後、旅人たちはネズミを捕まえて、バラジョウケ一杯の天ぷらをつくって吉右衛門谷へと向かいました。そして、大きな木の根元にバラジョウケを置き、キツネが出てくるのを待つことにしました。
プ~ンと天ぷらのいい匂いが風に乗って、あたり一面に漂い広がっていったころ、どこからともなく村人に化けたキツネが一人、二人、五人、十人と集まってきて、用意していた天ぷらはまたたく間に売り切れました。旅人たちは笑いが止まりませんでした。「おい、儲けたのう。明日も一商売するか」「おう、材料はなんぼでもあるき、しばらく荒稼ぎして行こう」「明日はごっとき(朝早く)からネズミを捕らなき、早う寝ろうや」二人は旅籠(はたご)(宿)に帰って、袋に入ったたくさんのお金を枕元に置いて眠りにつきました。
あくる朝のことです。「おい相棒、大きな大ごとばい」「どげんしたんか」「銭がのうなっちょる」「なしか、泥棒も入っちょらんとに」「袋ん中にゃ木の葉がいっぱいつまっちょる」「やられたか、さすがにキツネばい」「どげんするんか」「よーし、今日も売りに行くぞ」ということで、またネズミの天ぷらを売りに行くことにしたのです。昨日と同じように天ぷらをバラジョウケに山盛りつくり、大きな木の根元に置きました。「相棒、お前、この木の上に登って隠れちょけ。キツネが木の葉を持ってきたら上から合図せえ」「よし、わかった。任せちょけ」二人は相談して、一人は木の上で見張り、一人は下で天ぷらを売ることにしました。夕暮れ近くなると、また村人に化けたキツネが天ぷらを買いに出てきました。村人が「天ぷらくださいな」と言うと「はい、はい」と言いながらそっと上を見ました。木に登った男が首を横に振りました。「今日は騙されんど。売られんばい」次の客も「あんたにも売られんばい」何度かこのようなことを繰り返し、ある客の順番になったとき、木の上の男が首を縦に振りました。「はい。ありがとうございました」木の下の男は答え、天ぷらを売りました。キツネは木の葉のお金がばれたことを知って、本物のお金を持ってくるようになりました。旅人たちはこうして商売をしばらく続け、たくさん金儲けをして旅立っていったそうです。
あとから分かったことですが、そのころ、周辺の村では泥棒に入られる家が多かったらしいのですが、旅人が去ったのと時を同じくして泥棒に入られることはなくなったということです。