七月二七日に文挾の「市の堀用水路」沿いで二匹のオスを確認した。「栃木県動植物分布図」によれば、栃木県の特定昆虫類に選定されている。本種はサナエトンボ科に属する大型種で、腹部第八節の側縁が大きく広がってうちわ状を呈することから名付けられた。
本州・四国・九州に分布し、おもに平地や丘陵地の水生植物が多い池沼や湖に生息し、水郷地域のヨシやマコモの生育する溝にも生息する。県内では、平野部に広く分布するものの生息地は限られている。当地域では、市の堀が隣接する南那須町鴻野山の大溜がヤゴの生息域と考えられる。
イ.ムラサキシジミ
11図 ムラサキシジミ(メス)(1996年10月20日 宮内庁御料牧場)
平成八年一〇月二〇日に御料牧場西側のコナラ林床で、日光浴をする一匹のメスを確認した(11図)。特定昆虫類である。
本種はシジミチョウ科に属し、本州・四国・九州から南西諸島の一部に至るまで、暖地帯を中心に分布する。県内では県南部を中心に分布し、県北部や山地帯からの記録は少ない。
年二回、七月と一〇月に羽化する。幼虫はシラカシ・アラカシ等常緑カシ類の新芽を食餌とし、コナラの土用芽を利用する場合もある。成虫態で越冬する。町内では屋敷林や神社の林にカシ類が生育しているので、本種も広く分布するものと考えられる。
ウ.クロミドリシジミ
平成八年七月一〇日に文挾のクヌギ林で三匹のオスと一匹のメスを確認した。特定昆虫類である。
本種はシジミチョウ科のミドリシジミ類に属し、夕刻に活発な飛翔活動をする。本州・九州に分布し、年一回、六~七月に羽化する。幼虫はクヌギの新芽・花蕾を食餌とし、卵態で越冬する。
栃木県では昭和五二年(一九七六)に那須町の数地点から、ほぼ同時に越冬卵により確認された。その後、黒磯市・黒羽町・西那須野町・南那須町・馬頭町等からも記録されているものの、わかっている産地は少ない。文挾では樹高一五メートル程のクヌギ林1ヵ所で確認したが、クヌギの分布にそって、さらに広く生息するものと考えられる。
エ.オオムラサキ
12図 オオムラサキ(メス)(1996年7月27日 高根沢町大字文挟)
13図 オオムラサキ越冬幼虫(1997年2月22日 高根沢町大字文挟)
七月二七日に文挾のクヌギーコナラ林で、樹液を吸う二匹のオスと一匹のメスを確認した。また、二月二二日には同地のエノキ根元の落葉裏から越冬幼虫一一匹を確認した(13図)。「我が国の絶滅のおそれのある野生動物―無脊椎動物編―」によれば、希少種に選定されており、環境庁選定の指標昆虫類のひとつでもある。また、国蝶として切手にも図案化されている。
本種はタテハチョウ科に属する大型種で、北海道南部・本州・四国・九州に分布する。
県内では平地から低山地に広く分布していたが、平地では最近減少傾向が目立っている。
年一回、六~七月に羽化する。成虫はクヌギ・コナラ等の樹液を好むほか、湿った地表から吸水したり、イチジクやモモの腐った実にも飛んでくる。幼虫はエノキあるいはエゾエノキの新葉を食餌とし、幼虫態で越冬する。上柏崎・桑窪や御料牧場付近でもエノキを確認しているので、これらの地域にも生息する可能性がある。
平成九年七月から一〇月にかけて、現地調査により町内から記録できたチョウ類を5表に示す。樹林の多い文挾・御料牧場では種類が多く、鬼怒川では草地性の種が多く生息している。
5表 高根沢町のチョウ類
科名 | 種名 | 生息地 | 備考 | |||
文挾 | 桑窪 | 中阿 久津 | 御料 牧場 | |||
セセリチョウ | ダイミョウセセリ | ○ | ○ | ○ | 幼虫はヤマノイモの葉 | |
を食餌とする。 | ||||||
コチャバネセセリ | ○ | ○ | ○ | 平地~山地まで普通な | ||
セセリチョウ。 | ||||||
ヒメキマダラセセリ | ○ | ○ | ||||
キマダラセセリ | ○ | ○ | ||||
オオチャバネセセリ | ○ | ○ | ○ | |||
イチモンジセセリ | ○ | 秋に多くなる。イネの害虫 | ||||
アゲハチョウ | キアゲハ | ○ | ○ | ○ | ||
アゲハチョウ | ○ | ○ | ○ | |||
クロアゲハ | ○ | ○ | ○ | |||
カラスアゲハ | ○ | ○ | ||||
シロチョウ | キチョウ | ○ | ○ | ○ | ○ | |
ツマグロキチョウ | ○ | 秋に多くなる。暖地系種 | ||||
モンキチョウ | ○ | ○ | ○ | ○ | ||
モンシロチョウ | ○ | ○ | ○ | |||
スジグロシロチョウ | ○ | ○ | ||||
シジミチョウ | ムラサキシジミ | ○ | 暖地系種。県南部に多い。 | |||
アカシジミ | ○ | ○ | ○ | ミドリシジミ類の1種。 | ||
ウラナミアカシジミ | ○ | ○ | 〃 | |||
ミズイロオナガシジミ | ○ | ○ | ○ | 〃 | ||
クロミドリシジミ | ○ | 〃 | ||||
オオミドリシジミ | ○ | ○ | ○ | 〃 | ||
トラフシジミ | ○ | ○ | ○ | 春型と夏型では色彩が異なる | ||
ベニシジミ | ○ | ○ | ○ | ○ | 幼虫はタデ科植物を食餌とする。 | |
ゴイシシジミ | ○ | 幼虫は肉食性で、アブラムシを食餌とする | ||||
ヤマトシジミ | ○ | ○ | ○ | ○ | ||
ルリシジミ | ○ | ○ | ○ | ○ | ||
ツバメシジ | ○ | ○ | ○ | ○ | ||
ウラギンシジミ | ウラギンシジミ | ○ | ||||
テングチョウ | テングチョウ | ○ | 頭部に天狗のような突起がある | |||
タテハチョウ | ウラギンスジヒョウモン | ○ | ○ | ○ | 幼虫はスミレ科植物を食餌とする。 | |
ミドリヒョウモン | ○ | 〃 | ||||
ウラギンヒョウモン | ○ | ○ | ○ | 〃 | ||
イチモンジチョウ | ○ | ○ | ○ | |||
アサマイチモンジ | ○ | ○ | ||||
コミスジ | ○ | ○ | ○ | ○ | 平地~低山地に広く分布する | |
キタテハ | ○ | ○ | ○ | ○ | 〃 | |
ルリタテハ | ○ | ○ | ○ | |||
アカタテハ | ○ | ○ | ○ | |||
コムラサキ | ○ | |||||
ゴマダラチョウ | ○ | ○ | ○ | |||
オオムラサキ | ○ | |||||
ジャノメチョウ | ヒメウラナミジャノメ | ○ | ○ | ○ | ○ | 最も普通に見られるジャノメチョウ |
ジャノメチョウ | ○ | |||||
ヒカゲチョウ | ○ | ○ | ○ | |||
サトキマタラヒカゲ | ○ | ○ | ○ | |||
ヒメジャノメ | ○ | ○ | ○ | |||
8 科 | 46 種 | 38種 | 27種 | 23種 | 31種 |