28図 ベニバナツメクサ
帰化植物とはどんな植物をいうのだろうか。学問的にはいろいろな定義があるだろうが、ここで簡単に定義すると、今まで日本になかった植物が外国から日本に意図的または無意図的にはいり、自然に野生化している植物のことをいう。意図的というのは必要あって外国から持ち込んだもので園芸用、農業用、牧草用、土木建設用などのものでそれらが栽培地から自然にとび出して野生化したもの。無意図的とは気付かないうちに旅行者などに付着してきた種子によって繁殖したり、外国からの荷物にまぎれ込んで持ち込まれたもの。また、輸入動物などと共にまぎれ込んだものが野生化したものである。園芸植物や栽培植物のように手入れをしながら育てている植物は帰化植物とはいわない。現在日本に自生している野生植物の種類はたくさんあるが、そのうちどれが帰化植物でどれが元から日本に自生していたのか記録や資料が非常に少なく明らかにできないものも多いのは致しかたないことである。明治時代になって自然科学が重視されるようになってからはいってきたものは比較的明らかである。高根沢町にも多くの帰化植物が分布している。目立つもの目立たないものいろいろで、いつの間にか気付かないうちに在来種が消えて帰化植物と入れ替っているものもある。代表的な例は、タンポポの仲間で現在どこにでもみられるセイヨウタンポポは、いつの間にか昔自生していたカントウタンポポやエゾタンポポと入れ替った植物である。今回の調査ではエゾタンポポが中阿久津地区に僅かに観察できただけであった。また、農道に立って眺めると、昔たくさんあったイネ科のチガヤもほとんど姿を消してしまい、その後にイネ科のカモガヤやオニウシノケグサが交代して広がってきている。
帰化植物が広がる要因を考察すると、その一つとして交通機関の発達と土地造成などによる土砂の移動やそれにともなう資材や機材の移動によるものがある。林道の砂防に帰化植物の種子が直接散布され使われることもあるので深い山の中まで帰化植物がみられる。トラックターミナルや造成地、資材置場にはいろいろ珍らしい帰化植物が現れることが多い。また、新らしい帰化植物の場合はその植物を食草とする虫などがいないので増える場合も考えられる。
入れ替りの原因も新らしく侵入してきた植物の方が繁殖力が大きいため在来のものが縮められてしまうこともある、地表の大きな面積がコンクリートで覆われつつあるこの頃、コンクリートから溶けだすアルカリ性分により好酸性植物が衰退し、好アルカリ性の植物と交替することも考えられる。
五〇年くらい前までは外国の荷物の移動は鉄道が主流だったので、新らしい外国からの植物は、港湾付近と鉄道沿線に発見されることが多かった。初めてみる外国の珍らしい植物なので名前が分らず、沿線の人達はこれらを「鉄道草」と名付けていたので鉄道草と呼ばれる植物は何種類かある。
高根沢町にみられる帰化植物の主なものは次のようなものである。
7表 高根沢町の主な帰化植物
科 | 種名 | 渡来期 |
イネ | エノコログサ | 史前 |
オヒシバ | 史前 | |
カニツリグサ | 旧帰化 | |
カモガヤ (オーチャードグラス) | 江戸時代 | |
シナダレスズメガヤ | 1945年頃 | |
スズメノカタビラ | 旧帰化 | |
スズメノテッポウ | 旧帰化 | |
オオアワガエリ (チモシー) | 明治初期 | |
ハルガヤ | 明治初期 | |
ヒロハウシノケグサ | 不明 | |
ネズミムギ | 明治初期 | |
カヤツリグサ | カヤツリグサの仲間 | 史前 |
ヒガンバナ | ヒガンバナ | 最も古い時代縄文時代 |
ナツズイセン | 古い時代 | |
アヤメ | キショウブ | 明治中期1896年頃 |
アヤメ | ヒメヒオウギズイセン | 明治中期1890年頃 |
タデ | イヌタデ | 史前 |
エゾノギシギシ | 不明 | |
オオイヌタデ | 史前 | |
ヒメスイバ | 明治初期 | |
アカザ | ケアリタソウ | 大正時代 |
コアカザ | 古い時代 | |
シロアカザ (シロザ) | 史前 | |
ヒユ | イヌビユ | 江戸時代 |
ヤマゴボウ | アメリカヤマゴボウ | 明治初期 |
スベリヒユ | スベリヒユ | 史前 |
ナデシコ | オランダミミナグサ | 明治末期 |
ノミノフスマ | 旧帰化 | |
コハコベ | 1922年 | |
ミミナグサ | 旧帰化 | |
ムシトリナデシコ | 江戸末期 | |
アブラナ | ショカツサイ | 江戸時代 |
タネツケバナ | 旧帰化 | |
ナズナ | 旧帰化 | |
ハルザキヤマガラシ | 新帰化 | |
マメグンバイナズナ | 1892年 | |
オランダガラシ | 新帰化 | |
マメ | クサネム | 不明 |
ゲンゲ | 旧帰化 | |
シロツメクサ | 明治時代 | |
ハリエンジュ (ニセアカシヤ) | 不明 | |
ムラサキツメクサ | 明治初期 | |
イタチハギ | 大正初期 | |
ベニバナツメクサ | 明治初期 | |
コメツブツメクサ | 不明 | |
カタバミ | カタバミ | 旧帰化 |
ニガキ | ニワウルシ | 不明 |
ヒメハギ | ハリヒメハギ | 新帰化 |
トウダイグサ | エノキグサ | 史前 |
オオニシキソウ | 1903年 | |
アオイ | イチビ | 930年頃 |
オトギリソウ | コゴメバオトギリ | 1934年 |
アカバナ | メマツヨイグサ | 不明 |
ムラサキ | タビラコ (キュウリグサ) | 旧帰化 |
シソ | イヌハッカ | 新帰化 |
ヒメオドリコソウ | 明治中期1893年 | |
モミジバヒメオドリコソウ | 最近と思われる。 | |
ナス | アメリカイヌホオズキ | 1551年 |
イヌホオズキ | 史前 | |
ワルナスビ | 昭和初期 | |
ゴマノハグサ | オオイヌノフグリ | 1887年 |
タチイヌノフグリ | 1884年 | |
オオバコ | ヘラオオバコ | 江戸末期 |
アカネ | ヤエムグラ | 旧帰化 |
ウリ | アレチウリ | 1952年 |
キク | アメリカセンダングサ | 1945年頃 |
オオアレチノギク | 1926年 | |
オオアワダチソウ | 明治時代 | |
オナモミ | 920年頃 | |
オニノゲシ | 1892年 | |
キツネアザミ | 旧帰化 | |
キヌガサギク | 新帰化 | |
セイタカアワダチソウ | 1950年 | |
セイヨウタンポポ | 1904年 | |
センダングサ | 新帰化 | |
タウコギ | 史前 | |
ダンドボロギク | 1933年 | |
トキンソウ | 史前 | |
ハキダメギク | 新帰化 | |
ハハコグサ | 旧帰化 | |
ノゲシ | 史前 | |
ハルジオン | 大正中期1920年 | |
ヒメジョオン | 1870年 | |
ヒメムカシヨモギ | 新帰化 | |
ブタクサ | 1880年 | |
ベニバナボロギク | 1945年 | |
ヘラバヒメジョオン | 新帰化 | |
史前→弥生時代まで | ||
旧帰化→江戸時代まで | ||
新帰化→江戸末期より現代 |
注1 渡来期が江戸時代中期より以前のものは、在来種として扱われることもある。
注2 渡来期区分の分け方もいろいろあるが、縄文時代を最も古い時代の帰化植物とし、弥生時代を史前帰化植物、江戸時代末期までを旧帰化植物、江戸時代末期の一部および明治以降を新帰化植物とした。なお渡来期のはっきりしているものはできるだけ具体的に表記した。