一、分布上極限にある植物で、すなわち北限または南限などにあたる植物である。いずれも生育の限界上で生活しているので極めて不安定な状態でいつ消滅しても不思議でない。したがって生育の様子を見守り時には保護しなければならないこともある。
二、種々の環境条件の変化で、急速に減少しつつあるものおよび絶滅寸前の状態の植物。これは必要に応じて緊急の保護をしなければならない。
三、付近にはみられない希少な植物で個体数または生育場所が限定されているような植物。
四、広く分布しているが極端に個体数の少ない植物。
五、極端な広がりをみせる植物や人の生活に重大な影響をもたらすと考えられる植物等である。
高根沢町に限らずラン科の植物は全般に減少化の傾向を示している。かつてはたくさんあったというエビネは今回の調査ではみられなかった。キンラン、ササバギンラン、サイハイランなどの自生は確認できたが個体数は少なかった。これらのラン科の植物は生活できる山林が少なく、花が美しいので採集されてしまうことが多い植物である。ヒガンバナ科のナツズイセンはピンクの美しい花をつける。花姿はヒガンバナを少し大きくしたような植物で、文挾地区で一カ所みられただけであった。
30図 ナツズイセン
ミソハギ科のミソハギは真夏に赤紫色の小さい花をたくさんつける目立つ花であり大谷地区でみられた。両者とも自生品は昔より極端に減少した種類であるが、庭園ではたくさん栽培されている。したがって絶滅することは当分ないと思われるが前述したように庭園のものは野生植物からは除かれるのでなんとももの淋しい。前述したシソ科のモミジバヒメオドリコソウは帰化植物で、ほとんど一般には紹介されていない植物で、どんな分布をしているか現在資料が少なく不明である。今後どのような生活をするのか興味深い。
これも前述したものでヒメハギ科のハリヒメハギも本県ではあまり知られていない希少植物である。
仁井田地区の人家の石塀にウラボシ科のオシャクジデンダというシダ植物がキヅタの中に混じって自生していた。この植物は元来深い山の樹木にまれに着生するもので、葉が櫛のはのような深い切れ込みがあり、乾そうすると円を描いたように丸くなる。どうしてこのような植物が平地に自生していたのか興味のあるところである。
31図 オシャクジデンダ
絶滅の恐れが心配され、国をあげてその実態調査をしている対象植物に、シソ科のキバナアキギリがあるが山林いたる所でみられた。またイラクサ科のトキホコリも農家の庭先で何カ所かみることができた。このような植物は広く情報を集めながら注意深く観察してみる必要がある。
急速に繁殖し、深い山の中まで侵入した植物のうちキク科のブタクサ、セイタカアワダチソウは、その花粉が喘息などをひきおこすという説もあるので気をつけなければならない。トチカガミ科のコカナダモは河川のあちこちに大量繁茂しているが、水流を阻害する害草だが水質浄化作用もあるので利害を注意深く観察していく必要のある植物であろう。
宝積寺台地のカタクリの群落や東部丘陵のゼンテイカ(ニッコウキスゲ)の群落は人家近くでみることのできる美しい野生の花である。今では数少ないこのような所は、みんなで大事に見守り保護することが大切であろう。
注1 一般植物の種名は、大井次三郎著、改訂増補新版「日本植物誌」顕花編、至文堂。シダ植物は、中池敏之著、改訂増補版「新日本植物誌」シダ篇、至文堂。帰化植物は長田武正著、「原色日本帰化植物図鑑」保育社。長田武正著、「日本帰化植物図鑑」北隆館による。
注2 栃木県年平均気温(平年値)メッシュ図は、栃木県農業試験場、一九九二年作成資料より等温線をおこす。
注3 「モミジバヒメオドリコソウ)真岡市杉田勇治発見・写真提供。自生地確認。東京歯科大学歯科衛生士専門学校校長浅井康宏先生の同定をうける。「オシャクジデンダ」南那須町小峯洋一の報告により自生地確認。