上高根沢字西根地内の十九夜坂付近で旧石器時代相当の石槍が採集(菅谷肇所蔵)されている。現地は宝積寺台地の崖下で広く遺物が散布している西根遺跡の一角。この石槍は表裏とも入念に整形して仕上げたスラリとした柳葉形で、褐色の粘板岩製、尖端を極く一部と基部とが欠けているが、基部の末端は丸みをもつようにつくり出されていたものと思われる。現長で一〇・七センチ、最大幅二・二センチ、重さ二九・〇グラムである。表採品なので出土層位を特定できないが、形状からみると狭間田A遺跡で発見された石槍(「ミュージアム氏家」展示)とよく似ている。こちらは流紋岩製で、長さ一一・一センチ、最大幅一・〇センチ。重さ二〇グラム。スラリとした柳葉形で、形状も計測値も似ている。この石槍は、井戸の掘り上げ土に混って出土したもので、発見時には石器の表面に赤土がこびりついていた、というのでローム層産出とみてよかろう。地形面は田原ロームが推積する氏家・仁井田台地である。旧石器時代の終末に出現した石槍は、縄文時代の初頭にも継続していて、厚みのあるスラリとした柳葉形、やや薄手で幅広の木葉形の形態差があるが、前後のつながりはまだ明らかでない。
12図 旧石器時代の石槍
上.西根遺跡、下.狭間田A遺跡