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黒土の時代へ

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 縄文時代の遺物は赤土の上に堆積している黒土の中に含まれている。その最下部、つまり赤土の時代から黒土の時代へ移り変った直後の時期に神子柴・長者久保文化が登場し、続いて有舌尖頭器文化が出現する。この二つの石器文化は縄文草創期の時代に重なるが、地域差があり、旧石器の系譜をひく石器をもっている。神子柴・長者久保文化は、中部以東の東日本に広がり、シベリア起源とされる大型で縦長の局部磨製石斧と大型で薄身の槍先形尖頭器を主体とした異色の文化で、その存続は短期間だったらしい。
 有舌尖頭器は、中型で薄手の石槍で、基部に舌を突き出したような突出部をつくり出しているところからこの名がある。突出部は柄に刺し込む中茎で、投げ槍ないし矢の用途で使われたようだ。細身で長いものから寸が詰って菱形状のものまで各形態があるが、しだいに石鏃へ移行していくとされる。矢の祖形である。
 この二つの文化は、草創期の隆起線文・爪形文土器文化と併存するが、土器を伴わずに発見されることも少くない。旧石器文化の遺風をひきずりつつ、まだ縄文文化に移りきっていない文化といえる。いま、この段階を旧石器から縄文への過渡期の文化と捉え、「架け橋の時代」と呼ぼう。発見例はきわめて少いので、県北に枠を広げて概容を眺めたい。

13図 草創期の石器
1.局部磨製石斧・川木谷遺跡(1/4) 2.石槍・治武エ門遺跡(1/2)