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約一万年の存続

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 縄文時代とは、土器が出現する約一三,〇〇〇年前から弥生時代が始まる約二,四〇〇年前までのおよそ一万年間の長い時代で、狩猟・漁撈・植物採集などを生活の基盤とした社会である。今日の日本文化の原点は、水稲耕作を生産の基盤とした農耕文化が始まる弥生時代に求める意見も少なくないが、縄文文化の伝統の多くが弥生時代以降にも色濃く残っており、ある意味では日本文化の基礎が縄文時代にすでに形成されていたと言っても過言ではない。
 一口に一万年といっても、たいへん長い期間である。たとえば、維新により封建支配から開放され、文明開化によって欧米の文化が積極的に取り入れられ、現在のような社会制度や生活に大きく転換したのは明治以降のわずか百年余りであり、縄文時代の長さの一〇〇分の一ほどに過ぎない。また、日本(倭国)が百余国に分かれていたと中国の史書『漢書地理志』に歴史上はじめて記述として登場してからでさえ、二,〇〇〇年ほどしか経過しておらず、縄文時代がいかに古く、長い期間であったかが理解されよう。また、メソポタミア文明やエジプト文明でも五,〇〇〇~七,〇〇〇年ほどの長さであり、世界史的にみても一地域の一時代の長さとしては、栄枯盛衰があったものの縄文時代が類稀な長さであったことがわかる。
 この間、縄文時代は土と石と木を素材の基本とし、社会制度や経済基盤、精神生活などの共通性を根幹としながらも、日本列島が南北に長く、中央の脊陵山地で日本海側と太平洋側で大きく気候が異なることなどから、地域性に富んだ独特の文化を各地に育んでいくのである。