縄文時代の道具には、狩猟や採集に使う石鏃・打製石斧などの生産用具、石皿・磨石・石匙・土器などの調理用具、木の伐採や木器・石器などの製作に使う磨製石斧や石錐などの工具などがあることは先に述べた。これらは日常生活に必要なものであり、その形態等から素材は違っても、後世までその原形を留め、その用途が明らかなものである。これとは異なり、使用方法の明確でない遺物が中期以降になると多く現れ、後期から晩期には最盛期を迎える。
その代表的な遺物が土偶と石棒であり、ほかに石剣・石刀・独鈷石・石冠・土版・岩版・土面などがある。石剣・石刀などは実際には刃物としての用をなさず、独鈷石は仏具の独鈷杵に似ていることから命名されたものであり、これらの不思議な形の道具は、実際の用途とは異なり形態からの命名が少なくない。小林達雄はこれらの道具も時間をかけて作った縄文人の精神生活に必要不可欠な実用品であり、用途の明らかな実用的道具に対し「第二の道具」として理解しようとしている(小林達雄 一九九六)。
このほか、特殊な器形や赤く彩色された土器、土器文様にもある種の精神生活の一端が反映されているものと思われる。また、実用的な道具でも代々受け継がれていったもの、個人的に愛着を持っていたものなどは信仰や祭祀の対象となったであろう。
46図 精神生活の道具
1・2.石剣 3・4.独鈷石 5.石冠 6.土版 7.土面