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コラム 土製有孔円板

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51図 北高根沢中学校所蔵の土製有孔円板

 町史編さん事業の遺物の調査で平成六年に北高根沢中学校を訪れた。数箱のダンボール箱の中に縄文土器の破片や石器が、ほこりにまみれて収納されていた。喜連川丘陵の台新田地区や上高根沢の西根遺跡などで採集されたものだそうだが、採集地などが書かれたものはほとんどなかった。その中に、直径一〇センチ、中央に直径一センチの円孔が穿たれた手焼き煎餠ほどのほぼ完形の円板状の土製品があった。土製有孔円板と呼ばれているものである。ほこりまみれでその時は判らなかったが、洗ってみると中央の円孔の周りに二個一対の小孔が穿たれていた。文様はなく、指による整形痕が残っていた。焼成はあまく、器面の半分は黒斑がみられる。
 このような遺物は、千葉県西広貝塚で六一個出土しているのをはじめ東関東を中心とした関東地方の晩期前半の遺跡からの出土例が多い。本県でも小川町三輪仲町遺跡や氏家町勝山遺跡で完形品が出土しており、勝山遺跡のものは晩期中頃の配石遺構から出土しており、呪術や祭祀的な性格をもつ土製品と考えられている。本品もこの時期のものと考えると、本町ではこの時期の遺跡は東谷津遺跡しかなく、ここで採集された可能性が高い。縄文時代後晩期は奇妙な形で用途が明確にできない遺物が多い。この土製有孔円板もそのひとつで、これまで紡錘車・蓋・土錘などの説が唱えられているが、いずれも説得力に欠ける。形態的には、弥生時代以降、糸を紡ぐ時に回転によって糸に縒りをかける紡錘車に似ている。しかし、関東地方の縄文晩期前半にほとんど限られることや、縄文晩期という時期に紡績が行われていたかなどの問題を解決しなければならない。
 ただ、指紋の判る指による整形痕は、指紋鑑定をすれば縄文時代の製作者が割り出され、何に使ったか証言が得られそうで、何か親しみが感じられる遺物である。
 
参考・引用文献
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