南に内川の清流と平地を見下す丘陵急斜面の高みに立野古墳(矢板市東泉)はある。河原石積の横穴式石室は遺存がよく、地権者の寺院・瑞雲院の厚意で保存されている。周囲の古墳と同様〝山寄せ〟型で、低い墳丘と規則性の弱い石室方位が特徴の終末期古墳だ。石室は南面開口で、玄室の奥行きは三・七五メートル、最大幅は九七センチ。奥壁幅が八〇センチ、玄門幅が八五センチなので、玄室の平面形はやや胴張りを呈するが、側壁の河原石のせり出しも弱く、胴張りも持ち送りも弱い感じである。石室の前面にテラスをつくり出しているが、盛土がかなり流出してしまい墳丘規模ははっきりしない。床面には平石を敷き並べ、その上にバラスを撒いた。
発掘時、玄室内から二本の直刀と五本の刀子が出土した。刀子は床面に散在しており動かされた跡が歴然。異様だったのは直刀。二本が奥壁ぎわに、それぞれ柄元を立てかけるように置かれ、刃の部分がクロスしていた。この直刀の鍔に象嵌装飾がみられたのは本文に記述したとおりだが、供献された刀は普通、被葬者の体側に切っ先を足元へ向けて横たえるもの。それがあろうことか、死者の枕許に二本の刀が立体で交差しているのである。「片づけ」を被葬者とは異系譜の人々が行ったのでは…とする解釈もある。
31図 立野古墳の遺物出土状態(矢板市教育委員会提供)
図中の黒い棒は、長いものが直刀、短いものが刀子