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コラム 凝灰岩と古墳

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 八溝山地の西縁にあたる那珂川流域の一帯には南北に帯のように凝灰岩の露頭がみられる。地質学上では凝灰質砂岩、南那須町大金付近の荒川沿岸に断崖をなす露頭は特に代表的なもので荒川層群と称される。崖面に布を掛けたような「栄出の滝」や岩子付近の層序の眺めは自然美の迫力だ。このあたりは、第三紀の終りころにあった盆地で、海が浸入し、火山活動を伴いながら海中で堆積した岩層なのだという。岩盤は〝西高東低〟ぎみに斜傾し、盆地の縁にあたるこの付近では地表で露頭がみられるわけ。
 この凝灰質砂岩は、県東部の古墳文化と縁が深い。水を含むと脆い欠点はあるが、軟質で加工しやすいため、産地に近く搬出しやすい利点とあいまって切石積石室の用材となった。石材の切り出し、運搬、加工、組立て、と重量のある固形物を石室に仕上げるには多くの労力と手間がかかる。上の台古墳の石室切石に残されたノミ跡には、面に対し刃先をほぼ直角にあてた粗い加工や、面に平行に近いあて方で縦長のハツリ痕が連続する丁寧な加工の仕方が観察され、幾つもの工具を使い分けながらこの石材を整形していった石工たちの作業を偲ばせる。
 この凝灰岩の露頭は横穴墓の造営とも関係深い。七世紀の後半、横穴墓は、県東部に偏在する分布を示し、中でも南那須町・市貝町域には数多く造営されている。塚ではなく岩盤に横穴式石室をつくる特異な葬送儀礼をもつ集団がこの地域に在住したためだが、それも掘削しやすい凝灰岩の露頭があったればこその造営だ。自然の地形と地層を自らの精神生活に結びつけて活用した人々の文化の豊かさを感じさせられる。

43図 荒川河岸の凝灰岩露頭(南那須町 栄出の滝付近)