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鉄製品の増加

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15図 鉄製品

 土器のほかに生活用具で多く出土しているのが鉄製品である。およそ五〇点あり、その保有量は古墳時代と比較にならないほど増加している。鉄製品は貴重品で、研げば再利用が可能であり、捨てることは少なかったであろう。出土品の他には、地中に埋もれていたので、錆びて腐食してしまった場合も多かったはずである。したがって出土数以上、かなりの割合で人々は鉄製品を手にしていたのはまちがいない。東国の古代集落でも同様で、道具は多くの部分で鉄器化がすすんだことがわかる。砂部ムラから出土した鉄製品で形の判明したものには、農具の鎌、工具として刀子、釘、他に紡錘具、帯金具などがある。これらの製品について説明しておこう。
 鎌は四点出土している。今の鎌のように刃の部分が湾曲したもので、柄にとりつくところが垂直に折り返してある。柄に対してほぼ直角に装置されるもので、稲の穂首刈りに用いられた。刀子は小刀のことで、全長二〇センチ程度までのものをさす。鉄製品のうちでは最も点数が多く、一八点ある。切ったり、削ったりする道具として広く普及していたものであろう。釘は完存品は少ない。一〇センチ内外で、頭部を平らにしただけのものや、折り曲げたものとがある。
 紡錘車はコラムの項で述べたが、鉄でも作られた。紡茎、紡輪とも鉄でできており、紡輪は石製品や土製品と違い扁平な円板で、紡茎は径三ミリほどの棒状をなす。15図8は完成品で、上部は糸を引っかける鉤が見られる。砂部遺跡では二点が出土しているが、同じ三七一号住居跡からみつかっている。
 鉄製品のなかでもめずらしいものが帯金具である。鉸具と呼ばれるもので、帯につける金具、わかりやすくいえば、ベルトのバックルの部分である。ベルト(腰帯)は役人の象徴で、留め金具や飾りものの材質や大きさによって身分の位が区別されていた。この金具は六二号住居とした、壁柱穴をもつ大型住居から出土しており、その主の性格を示す可能性も否定できないが、帯金具の出土は役所的な遺跡に限定されないという事実を考えれば短絡的に身分と結びつけることはできない。
 他にも製品以外に鉄滓(鉄を作るときのカス)が、二四六号住居から出土している。さらに鉄を打つ時にでる火花、その固まったもの(鍛造剥片)も確認されており、鍛冶工房と考えられる。つまりこの集落内で簡単に鍛冶を行っていたことも知られるのである。