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コラム 東と西の出会う道―薩埵峠―

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12図 薩埵峠からの富士(「あかりの博物館」提供 静岡県由比町)

 旅好きの人なら、まず東海地方の地図でJR東海道線と国道一号線を見つけよう。次に、東名高速道路を見つけてみょう。すると駿河湾沿いの一カ所で、山地が海に迫った僅かな間隙を縫いこの三本が交差する所が見つかるだろう。よく見ると近くには東海道新幹線も通り、さらによく見ると旧東海道も通っている。ここが、薩埵峠である。薩埵峠の呼称は近世に入ってからのものであり、それまでは薩埵山と呼ばれてきた。薩埵山は静岡県清水市興津町と由比町との境にある標高約二四四メートルの山であるが、山地が直接駿河湾に臨み急崖をなしているため古来より交通の難所であるとともに軍事的に重要な地点でもあった。観応の擾乱において東下する尊氏軍が陣を敷き、西上する直義軍と互いの命運をかけ戦った激戦の地の一つであり、この合戦に宇都宮氏下で後詰として参戦した高根沢氏が討死にしている。
 薩埵峠へはJR東海道線由比駅で下車。駅前の道を折れ旧東海道へ入る。民家の格子戸に旧東海道の趣を感じながらしばらく西へ進むと、やがていきなり急勾配となる。ここが薩埵峠の入り口となる。さらに急勾配と九十九折りの山道を登ると急に視界が広がってくる。峠の頂上である。駿河湾からの潮風に吹かれ、ふと後ろを振り返ると安藤広重の浮世絵「本朝名所薩埵富士」そのままの富士山が目に入る。足元には、東海道線・東名高速道路・国道一号線が交差し、背後の山中には東海道新幹線という日本の大動脈が集中する地である。薩埵峠はまさに、古代から現代まで「東と西の出会う道」である。