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コラム 伊勢参詣曼荼羅の世界

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12図 伊勢参詣曼荼羅図(三重県伊勢市 神宮徴古館蔵)

 伊勢信仰が全国的に浸透する上で非常に有効であったと思われるものに、庶民の人々にもわかりやすく、しかもビジュアルに伊勢神宮の様子を描いた参詣曼荼羅図がある。伊勢神宮という聖域の景観内に、貴族から庶民にいたるまで大勢の信者たちが参詣している様を描いた図で、諸国を巡る御師たちや勧進聖たちが、これを携えて人々に伊勢神宮の様子を説明し、聖地巡礼を誘ったものと思われる。
 この絵の全体の構図は、右半分が外宮(豊受大神宮)、左半分が内宮(皇大神宮)で、社殿や御堂などの施設を絵の中で巡ることが出来るようになっている。
 まず参詣者は、右下隅の宮川舟橋で禊をして山田町に入り、外宮を拝し、右上の高倉山の天の岩戸の前で巫女舞を見た後、間の山をまっすぐに下がる。次に宇治橋で橋銭を投げながら五十鈴川を越え、宇治の町を経て内宮に詣で、左上の金剛証寺に至って富士山を遠望するという順路である。
 図中でこのコースをたどっていくと同じ人物と思われる参詣者の姿が実にたくさん描かれている。これは、この絵を見る人がこの参詣者になったつもりで巡ることが出来るという趣向となっているためであろう。この参詣者に導かれて境内を巡っていくと、櫛を売る店の前で立ち止まったり、鉦叩きや勧進聖とすれ違ったり、宇治橋川に向かって投銭をする参詣者と川の中でそれを拾う人々の様子、占いや賭博が行われているさまなどがあたかも実感出来るかのようである。
 この絵を見せながら絵解きをしていた御師たちの姿やそれを聞きながら見入っていた人々の表情などまでが想像されるような楽しい絵図である。

13図 伊勢参詣曼荼羅の概略図(『社寺参詣曼陀羅』大阪市立博物館編 平凡社 をもとに作図)