関俣の岡本家に残る慶応三年(一八六七)二月の「あい出方掛合仕法帳」(岡本 右家文書)によると、同家では農村における家内工業として藍染め業を始めた。その記録の中に藍を用いた染色法を書き留めている。
一日目は藍瓶一つに、藍靛(藍の葉を発酵させて固めた染料)を細かにし、三貫三百匁くらいを瓶に入れ、水を手桶で二杯ほど入れる。そこへ火床灰汁を四升、石灰四合くらい入れ、熱湯を手桶で四杯入れてよく掻き混ぜておく。
二日目、湯を熱く沸かして入れ、掻き混ぜておく。
三日目、湯を煮立つほどに沸かして藍瓶一杯になるほど入れ、石灰二、三合を入れて掻き混ぜておく。
四日目から十日目まで、毎日よく掻き混ぜておく。冬季には十四、五日目で染色に入ってよい。春季ならば十日目で染色に入ってよい。
茶染め方の事
渋木(山桃)の皮を煮て、その水にお歯黒を少し入れ、石灰のあく水で染める。
赤糸染め
はじめ渋木の皮をよく煮て染め、何度も煮て染める。次に渋木の煮汁に漬けて出し、「かね」を入れながら染める。次に、石灰を水に溶かして置き哂す。その後、スオウをよく煮て染め、ミョウバンをスオウの煮汁にて溶き、染める。最後にスオウの煮汁だけで染めると、極赤糸に染めあがる。
茶染めのよう
渋木の皮をよく煮て足し、「かね」を入れて染めると黒く染まる。次に、はぬ木(榛木・はんのき)の皮をよく煮て染める。
鬱金染めよう
鬱金の粉を煮て、煮立ったところへ木綿を入れて煮る。水の中へ入れ、酢を入れる。
この他に「ふとう蠟染め」「藍ねずみ染め」「藍かわ染め」などがある。また、藍瓶中の染汁保存法なども記されている。
藍玉を購入し、家族ぐるみの労働を行い得る染色業が、農村内部での手工業として、分業化していく。このことは、農村内での商品生産とその流通が進展するにつれて、生産と流通とが分離し、農業と工業との分業化もしだいに明確になっていたことを示している。