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増える村の商人

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 本県で地租改正が最終段階に入った明治一〇年二月、士族反乱の最後となる西南戦争が勃発した。すでに政府は産業育成のため官営工場の経営や民間産業への投融資で莫大な財政支出をしていて、経済はインフレの傾向を示していた。そこへさらに戦費調達のために四、〇〇〇万円を超える太政官札が増発されたので、インフレは促進され物価は高騰した。
 米価で見ると明治九・一〇年には玄米一石四円台だったが、明治一二年には七円台、一三年には九円台、一四年には一〇円二五銭とピークに達した(宇都宮相場)。地租は変わらないのに米価だけが上がったから、本町域のような米作地帯の農村は好景気にわきたって、消費ブームがおきた。辰街道沿いの亀梨・柏崎では明治九年にすでに料理屋一〇軒、宿屋四軒があって宿場としての賑わいをみせていたが(史料編Ⅲ・五六六頁)、表32でみるように花岡村でも明治一二年後半だけで煮売屋という飲食店が宿屋・酒屋の兼業もふくめて五軒開業しているし、荒物・小間物・呉服・塩魚・酒・砂糖などを売る店も開業した。
 明治一三年に町域の村で史料の残っているものを集計すると、表33のようで煮売屋一三、安泊五、絹毛織物商四(兼業の呉服をいれれば六)、肥料商五、穀物商六、炭・材木卸商七などがみられ、仲買商、炭・材木卸商、絹毛織物商、肥料商の売上高はかなり多い。なかでも飯室の仲買商・鈴木良一家、上柏崎の材木卸売商・鈴木常三郎家は売上高が二、五〇〇円を超すほどで、ここには出ていない上高根沢の宇津家(救命丸)とともに豪商の部類にはいる。これを表34明治四年の太田村組合九か村の営業鑑札所有者の「農間渡世」である水車稼ぎ二九、質屋八、酒・醤油醸造販売七、油絞り四、馬喰二と較べると、村の中の営業の種類がいかに多くなったかがわかる。
 そして、このような状況は農民の消費生活がいくぶんかは向上したことや米・肥料・材木などの取引が次第に増えてきていることを物語っている。
 米価の上昇に支えられて、明治一〇年代前半の農村は好景気のなかで農民の生産意欲も高くなり荒地の起こし返し・開墾なども活発に行われた。地主・豪農の中には自由民権運動に資金を提供したり、運動に参加して活躍する者もあらわれていたし、新たな事業を起こす者もあって農村は活気にあふれていた。それが一変するのは明治一四年(一八八一)の政変に続く松方財政の出現によってである。
 
表32 花岡村明治12年7月~12月開業届
営業種別人数及兼業種目営業種別人数及兼業種目
材木卸商  2 荒物・小間物  1 (砂糖、塩、醤油、塩
    魚、蝋燭、晒、下駄
    わらじ、筆墨、付木、
    手拭 ゾウリ 紙水
    引 傘笠 草子 砥
    石 元結 髪油 杓
    サワル 計21品目)
饅 頭 商  1
煮 売 店  1 兼=塩魚、青物類、
      草子
  1 〃=饅頭
3等 安 泊  1 兼=砂糖、蕎麦、う
       どん、煮売
  1 兼=煮売、塩魚、蕎
       麦うどん、紙、
       醤油、塩、青物、
       こんにゃく、わ
       らじ、線香、蠟
       燭、髪油草子、
       膏薬、ゾウリ、
       元結、艾草、茶
       ブシ
  1 兼 干鰯、行商
呉服・荒物  1(太物、手拭、砂糖、
    蝋燭、石油、髪油、
    元結、筆墨紙、線香
    箸、付木、傘、砥石
    紙カセ)
  1(太物、足袋、小間物
    醤油、砂糖、荒物)
酒 小 売  1
  1 兼 煮売
行   商  鮓 1、小間物 1、
  不明  1
塩 干 魚  1 兼 醤油紺   屋  1
魚漁釣り 11 水   車 2 兼 穀物

花岡村役場「諸願伺届書簿」明治12年 花岡 鈴木 徳家文書より作成
 
表33 明治13年の諸営業人(文挟、飯室、上柏崎、花岡)
文 挾飯 室亀  梨上 柏 崎花  岡
仲 買 商 - 二等 1  二等1   - -
卸  商 - - 二等炭1   三等炭3、材木2  材木 3   
絹毛織物商 1  1  1、着物商1 2       -
荒物、小間物 - - - 陶器商1       4、兼1  
肥  物 - 1 1 麺 商1        2  
穀  物 - - - 粉商1、兼1     4  
塩 魚 商    2、兼2  
飲 食 店 - - - 饅頭商1       二等1、兼3  
煮 売 店 兼1 - 3  4 (兼1)       5 兼饅頭商2
 兼青物商2
安  泊 兼1 - -   兼2             兼2  
行  商 - - 二等1   二等1           二等5  
魚  漁 2  5  2   - 13  
木地細工 - - - - 2  
絞  油 - - - - 1  
紺  屋 - - - - 1  
水  車 - - - - 4  

史料編Ⅲ・568頁史料17、18、19より作成
 
表34 明治4年の水車、鉄砲、馬喰、質屋、絞油、醸造営業者(塩谷郡太田村組合)
村  名水 車鉄 砲馬 喰質  屋油  絞  酒  醤油
太  田 3  - - 1  1  4  -  
平  田 9  4  - - 1   -  -  
西 高 谷 1  - - - -  -  -  
栗 ヶ 島 3  - - - -  -  -  
前 高 谷 2  - - 1  -  -  -  
上高根沢 11  ※30 2  4  1  2   1  
桑  窪 - 4  - - 1   -  -  
寺 渡 戸 - 1  - - -  -  -  
下 柏 崎 - 2  - 2  -  -  -  

注 上高根沢の鉄砲は四季打鉄砲13、猟師鉄砲17、他の村は四季打のみ
史料編Ⅲ・559頁、史料13、581頁史料24、25より作成