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陸羽街道の工事

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 工事費の予算は、県令に提出した費用では、一七万二〇〇七円であった。古河―氏家間は六万五三三一円、氏家―福島県境までが一〇万六六七六円であった。この費用についても六万円を国庫補助、三万七〇〇七円は関係郡村の協議費より支出し、七万五〇〇〇円は明治一七年度の地方税とした。これに対して、県会は一四万九三八三円五〇銭に減額することを議決し、このうち五万円を国庫補助とし、地方税を九万九三八三円五〇銭として、各郡村の協議費の負担を廃止した。これについて三島県令は了承し、すぐに工事に取りかかった。
 工事は四区に分けられ、北から順に着手された(表1)。第一着手は那須郡(県境―箒川)、第二は塩谷郡(箒川―鬼怒川)、第三は岡本原(鬼怒川―宇都宮)、第四着手は宇都宮以南(宇都宮―県境)に区分されていた。塩谷地区の工事について一七年五月二日の「下野新聞」には次のように記されている。「氏家宿の近在の上野原において、去る二八日に開道式が行われ、三島県令以下属官数名を伴い塩谷郡長荒賀氏、矢板武、印南丈作らの諸氏とともに臨場せられた」とあり、「この日氏家宿より三里内の町村より一戸につき一名ずつ役夫を招集し、彼らは手に鋤鍬を取り同所に集まった群集は幾千万か知らずといったありさまで、彼らは朝九時から午後三時ごろまでに数里の間の道を広めていった。工事終わり、県令は慰労として酒を振るまい餅が投げられた。高根沢村の宇津権右衞門からは酒三樽と投餅二〇俵が献納された」(史料編Ⅲ・九〇五頁)。
 国道変換路線のうち宝積寺―矢板間八里の動きを三島文書で見ると、「概して平坦の地勢なれば、該路線の開削は一日にて竣工すべしと、期日三日前に確定し測量を施行すべき下命あり、ここにおいて日の出より日没まで路線の踏査に従事し、屈曲すべきところには焚火を積み、かがり火を焚き、あるいは高張提灯を立て測量の目標になし、漸く期日までに測量を整頓すべし」とある。このように測量にもかがり火を焚いたりして深夜まで作業を続けた。工事運営には阿久津村の高台あたりに本部を置いたらしい。測量の杭打ちが終わると戸長などを通じて人夫が集められた。午前五時に集合し、一発の花火で作業を開始、休憩・作業も花火の合図で行われ、午後六時の解散時間には九発の花火が打ち上げられた。工事監督には巡査が見張り、さらに巡査を監督するために警部が配置された。
 人夫は、三里以内の町村からは一戸につき一名の出役が義務づけられ、その数は一〇万人を超えたといわれる。そのうち箒川―鬼怒川間の工事では、三万七二〇三名が動員された。表1に見られるように、宇都宮以南においては、平地であるとともに既存の陸羽街道を拡幅整備するということで、距離に対する人夫の数は少ないが、宇都宮以北はその約四倍の人数を要している。これは、宇都宮―氏家間がまったくの開削であったこと、また那須地方については地形上の理由から労力を多く要したものと思われる。
 こうして、八月三一日をもって砂利敷き・芝張りが終わり、落成に至った。
 一方、橋梁工事については、八月四日に着手され、最大の鬼怒川橋をはじめとして大小一一六か所の橋梁工事が行われたが、九月一五日の暴風雨により各河川が増水し橋の破壊が多く、これにより数千円が増加したといわれ、最終的に二万九四九一円を要した(三島通庸文書「国道改修事業誌」)。
 こうして、三島県令の強引な土木事業により、新陸羽街道は完成し、県庁の開庁式翌日の一七年一〇月二三日、陸羽街道と塩原新道が交差する現在の西那須野町三島で開道式が挙行された。三島は、こうした工事を写真と絵画で記録し、当時まだ貴重であった写真を写真師により写させた。それとともに、日本の近代洋画の祖といわれる高橋由一に洋画による記録を依頼した。由一は開削された道路をたどり、精力的にスケッチを描き、「三県道路完成記念帳」として石版画一二八図(山形五五図・福島五三図・栃木二〇図)を残しているが、この記念帳は当時の様子を克明に描写しており、美術的価値とともに歴史的にも貴重な資料となっている。
 
表1 陸羽街道改修工事の篤志人夫(明治17年)
区     域篤 志 人 夫 数1間当たり篤志人夫数
 第 1 着 手那   須   郡47,964 2.4
(県境 ~ 箒川)(那須郡)
 第 2 着 手塩   谷   郡37,203 2.5
(箒川 ~ 鬼怒川)(塩谷郡)
 第 3 着 手岡   本   原9,205 2.1
(鬼怒川 ~ 宇都宮)(河内郡)
 第 4 着 手宇 都 宮 以 南 {5,050 0.6
 (宇都宮 ~ 県境) 



(河内郡)
9,361
(下都賀・寒川郡)

「三島通庸文書」(国立国会図書館蔵)より作成、『栃木県史』通史編7・近現代二
 

図2 鬼怒川橋工事風景(西那須野町郷土資料館提供)