・七月二五日 七月分の俸給金六五円請求したところ、三五円だけ受け取った。よって次のとおり分配した。荒井校長一〇円、荒井訓導一〇円、人見訓導一〇円、黒崎代用教員五円(このあと、残金三〇円を受け取ったという記事が見られない。俸給についてはきちんと記されている日誌であるから、おそらく残金は支給されなかったようである)。
・九月二〇日 八月分の俸給領収に小使を役場へ遣わしたところ、本月末日まで待ってくれとのことにて、むなしく帰校した。
・九月二八日 八・九月分の俸給領収書を持たせ、小使を役場へ遣わしたところ、またまた解決せず、来月二日までとの言訳であった。
・一〇月二〇日 本日八月分の俸給解決した。よって即刻分配した。校長二〇円、荒井訓導一六円、人見訓導一六円、黒崎代用教員九円、裁縫教員四円(「よって即刻分配した。」という記事に、先生方の待ちわびていた気持ちが表れている)。
・一〇月二四日 本日荒井校長の九月分の俸給領収した。よって荒井訓導に六円、人見訓導に五円、黒崎代用に五円を配布し、残金三円を校長宅に届けた(九月分の給料がこの日校長分しか出なかったため、それを四人で分配したようである。なお校長は講習のため出張中であった)。
・一〇月二八日 九月分の俸給、本日ようやく解決した。
・一二月二一日 年末賞(ボーナスのことか)の辞令到着。校長三円、荒井一円、人見二円、黒崎一円、裁縫教員一円、使丁(公使)一円。
村の財政において、教育費の占める割合は表43のとおり約五〇パーセントを占め、高い数字を示している。さらに村の教育費の中で教員給料の占める金額は、表のように大変大きなものである。しかし教員給料の絶対額が多くても、一人一人の教員が充分な俸給を得ていたわけではないし、配給の遅れは記事のとおり日常的であった。たとえば、明治四〇年の本町域の教員の給料は表44のとおりである。
ちなみに、明治四〇年の白米一升(=一・四二五キロ)の小売価格は、二一銭六厘である(『日本史資料総覧』、近代米価表より)。白米自体の価値は現在も変わらないと考え、ここから白米を基準に計算すると(平成一〇年の白米一〇キロの小売り価格=五、〇〇〇円とする)、明治四〇年の一円は、現在の約三、三〇〇円と推計できる。もちろん年による米の出来不出来や物価の変動などがあるから、あくまでもおおよそである。
ここから、一番高い阿久津村の正教員の給料(一六円三六銭)でも現在に直せば五万円程度であり、准教員や雇教員に至っては二~三万円である。一二月に年末賞与が支給されたとはいうものの、わずかな金額である。
明治三三年の小学校令から、授業料は原則として徴収していないから、村にとって教育費は相当大きな負担になっていると思われる。そしてこれとともに、極めて不十分な俸給によって我慢しなければならなかった教員との双方の懸命の努力のうえに、高根沢町の近代教育は築かれていったのである。
図80 通信箋(伏久 塚原征文家蔵)
表43 明治四〇年度公学費歳出及び村歳出合計額 (単位:円)
町 村 名 | 校長 俸給 | 正教員 俸給 | 准教員 俸給 | 諸給料 | 雑 給 | 借地 借家地 | 書籍 器械費 | 営繕費 | 諸雑費 | 公学費 合計 | 生徒一人 あたり | 村歳出 合計額 | 公学費の 割合(%) |
阿久津村 | - | 二八四九・三 | 二〇四・〇 | 二九七・一 | 二四八・九 | 五・〇 | 七九・七 | 三五・二 | 四五九・七 | 三一七九・三 | 四・六 | 六二〇八・二 | 五一・二% |
北高根沢村 | - | 二二〇八・〇 | 四四四・〇 | 九六・〇 | 二九七・〇 | 二三・〇 | 一九一・〇 | 一八九・〇 | 四五九・〇 | 三八六三・〇 | 四・三 | 六六五二・一 | 五八・一% |
熟田村 | - | 七八〇・〇 | 二四〇・〇 | - | 一九・八 | - | 二六五・〇 | 二四・二 | 二〇八・七 | 一五三七・七 | 四・〇 | 四九二八・八 | 三一・二% |
明治四〇年度 塩谷郡統計書から作成
表44 明治40年度小学校教員平均俸給額の比較 (単位:円)
正教員 | 准教員 | 雇教員 | |
阿久津村 | 16.4 | 8.5 | 9.5 |
北高根沢村 | 15.1 | 9.7 | 7.5 |
熟田村 | 12.1 | 9.0 | - |
明治40年度塩谷郡統計書から作成
表45 明治四一年高根沢町管内公私立小学校表
学 校 名 称 | 設立の区分 | 所 在 地 | 創立年 | 修学 年限 | 学級数 | 訓 導 | 准訓導 | 生 徒 数 | 日々出席生 徒平均数 | 学 校 長 (設立者) | ||||
男 | 女 | 男 | 女 | 男 | 女 | 男 | 女 | |||||||
北高根沢尋常小学校 高等 | 公立 | 北高根沢村太田 | 明治六 | 六 四 | 五 四 | 二 三 | 二 - | 一 - | - - | 一一四 一一五 | 一〇六 五三 | 一〇五 一〇四 | 一〇六 五二 | 浩江 義也 |
阿久津尋常小学校 高等 | 同 | 阿久津村 中阿久津 | 三七 | 六 四 | 二 五 | 一 二 | - - | - - | - - | 五〇 一二〇 | 二八 六〇 | 四六 一一二 | 二六 五七 | 漆原 録郎 |
文挾尋常小学校 | 同 | 熟田村 文挾 | 八 | 六 | 三 | 一 | - | 一 | - | 七九 | 六二 | 七四 | 四八 | 宇津 礼五郎 |
上高根沢尋常小学校 | 同 | 北高根沢村 上高根沢 | 六 | 六 | 三 | 二 | - | 一 | - | 七六 | 八四 | 七〇 | 六三 | 谷田貝 健十郎 |
花岡尋常小学校 | 同 | 同村 花岡 | 九 | 六 | 二 | 一 | - | 一 | - | 七八 | 六一 | 七一 | 五三 | 村上 安三郎 |
桑窪尋常小学校 | 同 | 同村 桑窪 | 一七 | 六 | 一 | 一 | - | - | - | 四四 | 三五 | 四二 | 二八 | 瀧沢 留吉 |
亀梨尋常小学校 | 同 | 同村 亀梨 | 二六 | 六 | 一 | 一 | - | - | - | 四〇 | 三五 | 三七 | 三三 | 小幡 常松 |
柏崎尋常小学校 | 同 | 同村 柏崎 | 六 | 六 | 一 | 一 | - | - | - | 二二 | 三〇 | 二一 | 二八 | 古舘 峰次郎 |
石末尋常小学校 | 同 | 阿久津村 石末 | 一六 | 六 | 三 | 一 | - | 一 | - | 七三 | 六三 | 六四 | 四九 | 阿久津 静作 |
宝積寺尋常小学校 | 同 | 同村 宝積寺 | 七 | 六 | 二 | 一 | - | 一 | - | 四九 | 六三 | 四七 | 五四 | 野口 善次 |
大谷尋常小学校 | 同 | 同村 大谷 | 一四 | 六 | 一 | 一 | - | - | - | 二七 | 三七 | 二四 | 三〇 | 細 栄次郎 |
明治四一年 栃木県学事年報から作成
注一 北高根沢尋常高等小学校に、専科教員:尋常科男一名、代用教員:高等科男一名あり。
注二 阿久津尋常高等小学校に、専科教員:尋常科女一名、代用教員:高等科男二名あり。