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村財政の窮乏―北高根沢村

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 繭・生糸価格の下落に続いて米価が暴落したのは昭和五年の一〇月からだった。それが県民生活に与えた影響を県税滞納処分という面から見てみよう。表4で見ると、滞納による督促状発付人員は昭和二年の九万人から五年には二〇万人を超え、六年二五万人、七年には最大の二七万八〇〇〇人に達した。これは当時の県人口の一八パーセントを超える数であるが、そのうち財産競売処分をして徴収した人数と金額は二年が約一万人・四万円、五年は約四万人・一二万円、七年は約五万人・一四万円になっていた。そして、督促状発付人員は一〇年から減りはじめるが、財産差押・競売処分を受ける人数は増えつづけている。督促状一人当たりの金額は昭和六年までの三円台から七年からは二円台に下がり、より零細な納税者の滞納が増えたことを示している。滞納された県税は昭和七年では家屋税の二五パーセント、地租付加税の二〇パーセントと雑種税(自転車、荷車、水車、牛馬、漁業などにかかる税)の三七パーセントが主なものであった。
 この時期の北高根沢村の財政状況を表5で見てみよう。大正一五年から昭和四年までは財政規模に大きな変化はない。大正一五年が昭和四年より一万五〇〇〇円ほど多いのは基本財産の運用で、歳出臨時部の尋常高等小学校の増築を行ったからである。ところが、昭和五年に入ると村は恐慌の影響をまともに受けることになった。予算書も決算書も残っていないが、同年の岩本銀造村長の事務報告は財務の項で次のように述べている。
 
  現今財界の不振により村財務に及ぼす影響ますます其の度を増し、昭和五年一二月現在に於ける村税納入成績は好ましからざる状態にあり。加うるに指定銀行への預金の運用開かれず(五年一二月指定銀行・下野中央銀行の休業を指す)、村運営はいよいよ苦境に瀕しつつあり。従って、極力緊縮を旨とし一二月より教員・吏員の旅費支給は二割減を断行せり。しこうして、営業(税納付者)・雑種(税納付者)の廃業は昨年に比し多大の増加を示すにいたれり。この成り行きに進みなば自治執行に大なる支障きたるをおもんばかる次第なり
 
 そして、次に税の滞納状況を記している。昭和五年一二月現在で未納分は県税四、六三二円、村税一万二七〇五円、市の堀水利組合費四八円、計一万七三八五円であった。村税は通常村の歳入の六〇パーセントほどを占めていたが、五年の滞納分は普通の年の村税の二五パーセント程度にあたる。また、村税は特別税戸数割(所得と資産を基にかける税)と地租・雑種税の付加税が主だから、不況で商売を止める人が増えれば納税者も減るし、納税額も減ってしまう。ことに五年度は義務教育費の国庫負担金が三、〇〇〇円程増額になり、その分で戸数割の減額をして一般村民の負担軽減をしたばかりだった。そのうえ、下野中央銀行の休業で村の所有する預金(村基本財産、各種積立金五万八〇〇〇円余)と徴収した税金・手数料の預入分(歳計金・約二万円)も使えない状態となった。旅費の二割カット程度の対応で済むはずはなく、より厳しい対策が必要になった。それは六年度予算に現れた。
 
表4 県税滞納処分
 年  次
  
 督 促 状 発 付 財 産 差 押 処分決行徴収
人 員金額(円)人 員金額(円)人 員金額(円)
 昭和 2 年90,369292,82217,71356,30811,90441,130
    3107,294362,75032,83697,68828,47679,398
    4145,024535,55740,731125,09432,94796,136
    5208,346714,83156,563165,52842,061122,186
    6252,073783,48153,325150,30236,582103,082
    7278,454800,30063,149182,34151,061142,415
    8234,359655,32885,756225,11265,324172,770
    9228,650656,98394,132237,01774,046174,808
    10185,916508,790111,123275,96089,684206,593

栃木県統計書 昭和6・10年より作成
 
表5-1 恐慌期の北高根沢村の財政
項目/年度大正15・昭元年度決算昭和4年度決算昭和6年度予算
歳入
 
歳出経常部
 
歳出臨時部
歳出計
差引残額
101,131円19銭
 
55,737円45銭
 
31,824円  
87,561円45銭
13,569円74銭
85,657円68銭
 
63,447円04銭
 
11,848円71銭
75,295円75銭
10,361円93銭
57,927円
(18,667減)
55,429 
(10,824減)
2,498 
57,927 
0 
[歳入内訳]
・御料地下賜金
・基本財産収入
・使用料手数料
・義務教育費国庫下渡金
・交付金(国県税
 徴収、水利組合)
・国県補助金
・繰越金、雑収入
・寄附金
・基本財産運用
・村税
 
 内 地租付加税〃
 
   所得 〃
   戸数割〃
   営業税〃
   雑種税〃
 歳入合計

323円 
3,732円83
1,032円65
12,898円93
3,280円17
97
 
3,508円63
6,793円 
18,500円 
51,031円98
 
12,304円69
 
5,648円42(家屋税付加)
25,434円20
470円10
5,855円15 
101,131円19

323円 
2,896円41
1,162円30
12,533円 
2,896円16
 
600円 
12,252円99
 
 
52,993円81
 
12,825円38
 
2,861円76
28,980円49
647円70
6,367円52
85,657円68 

323 
2,850 
925 
14,082 
2,741 
 
460 
5,265 
1 
 
31,280 
(20,745円減)
12,440 
(含特別地税182)
3,100 
10,108 
516 
4,126 
57,927円
(当初予算より
11,735円19銭増)
(当初予算より
6,725円56銭増)
(当初予算案より
歳入減額18,667円)

表5-2 恐慌期の北高根沢村の財政
項目/年度大正15・昭元年度決算昭和4年度決算昭和6年度予算
 [歳出内訳]
・役場費
 
 
・会議費
・土木費
・小学校費(6校分)
・実業補修学校、
 裁縫学校(2)
・学事諸費
・伝染病予防費
・救助費
・警備費
・基本財産造成費
・諸税
・神社費
・雑支出
・社会事業費
・青年訓練所費
・予備費
 [歳出経常部計]

9,135円65
 
 
 
464円60
2,500円 
33,422円89
1,507円48
 
1,187円98
633円71
―  
682円68
5,343円15
2円80
120円00
―  
―  
736円49
841円80
55,737円45

11,576円25
 
 
401円80
2,498円59
38,840円15
1,643円61
 
2,376円66
609円52
5円00
690円11
3,419円41
―  
150円 
(繰替金)177円34
24円00
1,039円62
―  
63,447円04

8,778円
(1,761減・村長助役報
酬650を500に)
270 
(1,000円減)2,000 
(5,238減)35,416 
(782減)1,056 
 
1,368 
446 
5 
689 
3,373 
8 
150 
160 
30 
(314減)670 
1,100 
55,429円
 [歳出臨時部]
・尋常高小増築・修繕費
・補助費 
・小学校組合会
   青年団
   処女会
   農会
   軍人分会
   受検組合
   衛生組合
   納税組合
・基本財産戻入金
・庁舎改築費
・寄付金(氏女)
・自創費
 [歳出臨時部計]

28,117円
1,540円
60 
200 
120 
1,000 
250 
500 
 
 
 
 
1,667 
 
31,824.00

1,959円76
2,810円
60 
200 
100 
1,500 
250 
200 
150 
500 
2,812 
2,000 
2,300 
16円95
11,848円71

(1,533減)78円
(1,130減)1,865 
50 
180 
50 
(300減)1,200 
(15減)235 
(185減)0 
(100減)150 
(500減)0 
555 
0 
― 
― 
2,498円
 [歳出総計]87,561.4575,295円7557,927円


 4年度村税未納額 2,078円20銭 昭和5年4~12月諸税未済額
 過年度分     3,343円31銭  県税 4,632円
 計        5,421円61銭  村税12,705円 計17,337円