この時期の北高根沢村の財政状況を表5で見てみよう。大正一五年から昭和四年までは財政規模に大きな変化はない。大正一五年が昭和四年より一万五〇〇〇円ほど多いのは基本財産の運用で、歳出臨時部の尋常高等小学校の増築を行ったからである。ところが、昭和五年に入ると村は恐慌の影響をまともに受けることになった。予算書も決算書も残っていないが、同年の岩本銀造村長の事務報告は財務の項で次のように述べている。
現今財界の不振により村財務に及ぼす影響ますます其の度を増し、昭和五年一二月現在に於ける村税納入成績は好ましからざる状態にあり。加うるに指定銀行への預金の運用開かれず(五年一二月指定銀行・下野中央銀行の休業を指す)、村運営はいよいよ苦境に瀕しつつあり。従って、極力緊縮を旨とし一二月より教員・吏員の旅費支給は二割減を断行せり。しこうして、営業(税納付者)・雑種(税納付者)の廃業は昨年に比し多大の増加を示すにいたれり。この成り行きに進みなば自治執行に大なる支障きたるをおもんばかる次第なり
そして、次に税の滞納状況を記している。昭和五年一二月現在で未納分は県税四、六三二円、村税一万二七〇五円、市の堀水利組合費四八円、計一万七三八五円であった。村税は通常村の歳入の六〇パーセントほどを占めていたが、五年の滞納分は普通の年の村税の二五パーセント程度にあたる。また、村税は特別税戸数割(所得と資産を基にかける税)と地租・雑種税の付加税が主だから、不況で商売を止める人が増えれば納税者も減るし、納税額も減ってしまう。ことに五年度は義務教育費の国庫負担金が三、〇〇〇円程増額になり、その分で戸数割の減額をして一般村民の負担軽減をしたばかりだった。そのうえ、下野中央銀行の休業で村の所有する預金(村基本財産、各種積立金五万八〇〇〇円余)と徴収した税金・手数料の預入分(歳計金・約二万円)も使えない状態となった。旅費の二割カット程度の対応で済むはずはなく、より厳しい対策が必要になった。それは六年度予算に現れた。
表4 県税滞納処分
年 次 | 督 促 状 発 付 | 財 産 差 押 | 処分決行徴収 | |||
人 員 | 金額(円) | 人 員 | 金額(円) | 人 員 | 金額(円) | |
昭和 2 年 | 90,369 | 292,822 | 17,713 | 56,308 | 11,904 | 41,130 |
3 | 107,294 | 362,750 | 32,836 | 97,688 | 28,476 | 79,398 |
4 | 145,024 | 535,557 | 40,731 | 125,094 | 32,947 | 96,136 |
5 | 208,346 | 714,831 | 56,563 | 165,528 | 42,061 | 122,186 |
6 | 252,073 | 783,481 | 53,325 | 150,302 | 36,582 | 103,082 |
7 | 278,454 | 800,300 | 63,149 | 182,341 | 51,061 | 142,415 |
8 | 234,359 | 655,328 | 85,756 | 225,112 | 65,324 | 172,770 |
9 | 228,650 | 656,983 | 94,132 | 237,017 | 74,046 | 174,808 |
10 | 185,916 | 508,790 | 111,123 | 275,960 | 89,684 | 206,593 |
栃木県統計書 昭和6・10年より作成
表5-1 恐慌期の北高根沢村の財政
項目/年度 | 大正15・昭元年度決算 | 昭和4年度決算 | 昭和6年度予算 |
歳入   歳出経常部   歳出臨時部 歳出計 差引残額 | 101,131円19銭   55,737円45銭   31,824円 87,561円45銭 13,569円74銭 | 85,657円68銭   63,447円04銭   11,848円71銭 75,295円75銭 10,361円93銭 | 57,927円 (18,667減) 55,429 (10,824減) 2,498 57,927 0 |
[歳入内訳] ・御料地下賜金 ・基本財産収入 ・使用料手数料 ・義務教育費国庫下渡金 ・交付金(国県税 徴収、水利組合) ・国県補助金 ・繰越金、雑収入 ・寄附金 ・基本財産運用 ・村税   内 地租付加税〃   所得 〃 戸数割〃 営業税〃 雑種税〃 歳入合計 | 323円 3,732円83 1,032円65 12,898円93 3,280円17 97   3,508円63 6,793円 18,500円 51,031円98   12,304円69   5,648円42(家屋税付加) 25,434円20 470円10 5,855円15 101,131円19 | 323円 2,896円41 1,162円30 12,533円 2,896円16   600円 12,252円99     52,993円81   12,825円38   2,861円76 28,980円49 647円70 6,367円52 85,657円68 | 323 2,850 925 14,082 2,741   460 5,265 1   31,280 (20,745円減) 12,440 (含特別地税182) 3,100 10,108 516 4,126 57,927円 |
(当初予算より 11,735円19銭増) | (当初予算より 6,725円56銭増) | (当初予算案より 歳入減額18,667円) |
表5-2 恐慌期の北高根沢村の財政
項目/年度 | 大正15・昭元年度決算 | 昭和4年度決算 | 昭和6年度予算 |
[歳出内訳] ・役場費     ・会議費 ・土木費 ・小学校費(6校分) ・実業補修学校、 裁縫学校(2) ・学事諸費 ・伝染病予防費 ・救助費 ・警備費 ・基本財産造成費 ・諸税 ・神社費 ・雑支出 ・社会事業費 ・青年訓練所費 ・予備費 [歳出経常部計] | 9,135円65       464円60 2,500円 33,422円89 1,507円48   1,187円98 633円71 ― 682円68 5,343円15 2円80 120円00 ― ― 736円49 841円80 55,737円45 | 11,576円25     401円80 2,498円59 38,840円15 1,643円61   2,376円66 609円52 5円00 690円11 3,419円41 ― 150円 (繰替金)177円34 24円00 1,039円62 ― 63,447円04 | 8,778円 (1,761減・村長助役報 酬650を500に) 270 (1,000円減)2,000 (5,238減)35,416 (782減)1,056   1,368 446 5 689 3,373 8 150 160 30 (314減)670 1,100 55,429円 |
[歳出臨時部] ・尋常高小増築・修繕費 ・補助費 ・小学校組合会 青年団 処女会 農会 軍人分会 受検組合 衛生組合 納税組合 ・基本財産戻入金 ・庁舎改築費 ・寄付金(氏女) ・自創費 [歳出臨時部計] | 28,117円 1,540円 60 200 120 1,000 250 500         1,667   31,824.00 | 1,959円76 2,810円 60 200 100 1,500 250 200 150 500 2,812 2,000 2,300 16円95 11,848円71 | (1,533減)78円 (1,130減)1,865 50 180 50 (300減)1,200 (15減)235 (185減)0 (100減)150 (500減)0 555 0 ― ― 2,498円 |
[歳出総計] | 87,561.45 | 75,295円75 | 57,927円 |
注
4年度村税未納額 2,078円20銭 昭和5年4~12月諸税未済額
過年度分 3,343円31銭 県税 4,632円
計 5,421円61銭 村税12,705円 計17,337円