一、本村は県下稀にみる空襲災害農村で七月下旬の水田除草ができず、生育上甚大な影響がでた
二、稲の出穂期に台風災害により前年比で四割の減収が予想される
三、敗戦後における供出意欲の減退が著しく指導が困難である
四、最も憂慮されることは横流し問題で、この犯罪者は有識の世の指導者階級で、純真無垢の農民を誘惑する傾向がある
五、横流しは農家が必需物資の不足の結果にあるため、物資配給には格段の御高配を給わりたいと
このように述べ供出完了期は一二月中とし、全力を傾けるとしている。同じようなやりとりは一一月二日付で塩谷地方事務所長から各町村へもきていた。阿久津村長は直ちに返事を送っているが、この時の通知で食料不足について所長は厳しい現実を次のように述べている。
食料事情ハ戦勝国、戦敗国ヲ問ハズ、全世界的ニ極度ノ逼迫下ニサラサレ、特ニ敗戦国タル吾ガ国ハ飢餓寸前ノ危険状態トモ存ジラルヽ実情ニアリ。食料対策コソ国体護持民族興亡ノ直面セル根本問題ト思フ(後略)
まさに非常事態のなかで供出問題は国家の存亡がかかった重大問題であった。村長は部落会長あてに「同胞愛ノ御発露ニヨリ一粒タリトモヨリ多クノ供出ニヨリ一般非農家、更ニ同情スベキ戦災者ヲ救済セラレル様」にと部落毎の収穫見込、供出可能量を一一月一〇日までに回報されるように通知している。県知事、地方事務所長への阿久津村の供出報告は表1にみられるように供出見込量を総生産見込数量の五八パーセントと計算し、翌一月上旬を供出可能な時期としている。供出を促進するため栃木県では「食料供出委員」を設置し積極的な対応にあたった。
県では、昭和二〇年産の米穀供出を確保するため物資の特配を実施することにした。特配は割当数量ノ範囲内において食用油・地下足袋・ゴム長靴・鎌などについて表2のように割り当てられた。この表からみる限り郡内最大の米産地である北高根沢村の供出量は塩谷郡第一で、特別配給物資も多かった。一二月十三日北高根沢村長は「至急回覧是非ヨク見テ下サイ」と供出についてお願いし、申し合わせとして次の三項目をあげている。
一、供出に協力しない方には品物の配給を止めることに致しました
二、配給品は今後供出の成績によって其の数量を定めることに致しました
三、連合軍からも闇・横流しを止めるよう警告されておりますからお互いに注意すること
敗戦から四か月余、昭和二〇年も終ろうとする一二月三一日阿久津村長は、三一日現在の供出状況を報告すると同時に知事に意見を述べる書簡を提出した。その要点は、(一)阿久津村では現在供出量一万二千俵、これは本日自動車で集荷中であること、(二)東京都への本村供出割当一千八百俵はすでに集荷済みであるが、鉄道の配車が円滑ならば、滞荷をみずに戦災地に輸送が可能なので、明一月一日、二日の二日間位は公用その他、至急用務以外の施行を停止すれば、それが可能になるとしている。供出米は集荷されていても、輸送が大きなネックになっている状況である。敗戦以降、勝つためといった政府の統制のタガがはずれ、列島全体は混乱の渦のなかにおかれた。
表1 昭和20年度供出見込量報告 阿久津村
水田面積 | 1,103町5反 | 反当収穫予想123.7升 | 生産見込 13,650.3石 |
陸 稲 | 20町6反 | 〃 30.0升 | 〃 61.8 |
総生産見込数量 | 13,712.1石 | ||
種子量 | 46.0石 | ||
保存量 | 5,253.2石(5,160人分, | ||
1人2合8勺) | |||
供出見込量 | 7,998.9石(19,997俵) | (生産見込量の58%) | |
供出可能時期 | 昭和21年1月上旬 |
表2 昭和20年産米穀供出確保用物資配給割当表
品名 町村名 | シャツ | モンペ | モモ シキ | 食用油 | 上衣 | ズボン | 褌 | 地下 タビ | ゴム長 | 鎌 | |
枚 | 足 | 枚 | 足 | 本 | 足 | 足 | |||||
矢 板 町 | 90 | 60 | 130 | 102 | 133 | 66 | 2,164 | 44 | 3 | 8 | |
泉 村 | 69 | 47 | 102 | 80 | 104 | 52 | 1,708 | 35 | 2 | 6 | |
箒 根 村 | 43 | 29 | 64 | 49 | 65 | 33 | 1,057 | 22 | 2 | 2 | |
塩 原 町 | 7 | 5 | 11 | 9 | 11 | 6 | 141 | 4 | ・ | ・ | |
船 生 村 | 55 | 38 | 8 | 63 | 82 | 41 | 1,346 | 28 | 2 | 3 | |
玉 生 村 | 47 | 32 | 7 | 55 | 72 | 36 | 1,166 | 24 | 2 | 4 | |
大 宮 村 | 100 | 68 | 147 | 115 | 150 | 76 | 2,447 | 50 | 3 | 11 | |
氏 家 町 | 153 | 104 | 225 | 177 | 231 | 116 | 3,768 | 77 | 4 | 18 | |
阿 久 津 村 | 129 | 88 | 89 | 148 | 194 | 98 | 3,175 | 65 | 4 | 14 | |
北高根沢村 | 239 | 163 | 350 | 275 | 361 | 181 | 5,864 | 120 | 6 | 28 | |
熟 田 村 | 151 | 104 | 229 | 175 | 229 | 114 | 3,736 | 86 | 4 | 19 | |
喜 連 川 町 | 79 | 54 | 116 | 91 | 119 | 60 | 1,943 | 39 | 3 | 7 | |
片 岡 村 | 76 | 51 | 112 | 88 | 116 | 57 | 1,868 | 38 | 3 | 7 | |
計 | 1,238 | 843 | 1,619 | l,417 | 1,867 | 936 | 30,375 | 632 | 38 | 127 |
石末 野沢俊子家文書「供出割当簿」より