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改革後の村々

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 農地改革の結果は表7のようで、阿久津村の小作地は七五八町歩から一六五町歩へ、北高根沢村は一、一八七町歩から二一四町歩へ、熟田村は九〇一町歩から一二九町歩へ、三か村で二、八四八町歩から五〇八町歩へ減った。そして、二、六三一町歩が小作人に売渡された(二五年八月現在)。農地を売渡した地主の総数は三か村で一、二八二人、個人の不在地主がその約半数の六三三人であった。この結果、小作地比率は三か村平均で八・四パーセントとなり、改革前の五二・七パーセントから大幅に減少して、耕地に基礎を置く地主制は消滅した。
 改革後、本県では農地の買収は強制的で、かつ十分な保障を伴わなかったとして「自作農創設特別措置法」が憲法第二九条に違反するという行政訴訟が二五八件提訴された。農地改革に反対する組織的運動として注目されたが、一審、控訴審、上告審ともに敗訴となった。その後、農地改革反対運動は地主補償を政府に要求する全国的運動となり、昭和四〇年(一九六五)に「農地被買収者等に対する給付金の支給に関する法律」が制定され、地主報償金の支払いが決定した。支払いは一戸当たり一〇〇万円を限度、水田一〇アール当たり二万円を最高として、一〇年償還の無利子国債で行われた。この国債の受給者は個人一〇六万九二五六人、法人・団体九万二二七二、交付金額一、二三七億円であった。これで農地改革反対運動は一応の収束をみた。
 農地改革で大量の自作農がうまれた農村は大きな変貌を見せた。栃木県では表8のように自作農は六二・二パーセント、自小作農三三・七パーセント、但し、内二七・八パーセントは自作地が主なので、実質的な自作農は約九〇パーセントになる。次に町域の農家の経営耕地面積を見ると表9のようで、三か村平均で一町以下層が三六・五パーセント、一町以上二町以下層が二七パーセント、二町以上層が三六・三パーセントである。県平均では一町以下層四九パーセント、一町以上二町以下層は三四パーセント、二町以上層一七パーセントなので、県平均と較べると、高根沢地域は一町以下層の比率が低く、二町以上層の比率がかなり高い、比較的経営規模の大きい農家の多い地域ということができる。しかし、一町歩以下の農家・三六・五パーセントは米作地帯では兼業化しなければ経営として成立しない零細農家である。改革後の高根沢地域の農業は二町以上層農家がどう発展するかで規定されて来るだろう。
 こうした改革の結果を踏まえて、農地改革の意義は次のようにいえる。
 
  一 農地改革は「半封建的」といわれた高率現物小作料を収取する地主制をなくした。そして、農民は自分の計画で農業を経営し、生産物を販売できるようになった。だから自分の労働を正当に評価して労働賃金を得、経営者として利益を手にいれることも可能になった。農業経営が成功するか否かは農民個人の能力と責任となった。
  二 改革の結果成立してきた自作農は経営規模は余り大きくないが、農業の利益と政府の食糧増産のための補助金で化学肥料、農薬、農機具などを購入し、生産力を高めていった。
  三 農地改革には山林未解放、零細経営の大量創出等を指摘して、その不徹底さを批判する見解もあったが、広範に成立した「自由な零細経営」は数年の内に巨大な国内市場を形成した。そして、化学肥料、農薬、農業機械への需要と日用雑貨、衣料等への巨大な消費需要を産みだし、日本資本主義の非軍事的再建と急速な成長の歩みを保障していた。
 
表7 農地解放面積 単位は町歩(昭和25年8月1日)
 事項別 昭和20年11月23日現在買収済
面 積
所管換
面 積
 計売渡済
面 積
市町村別農 地 面 積
自 作 地小 作 地
阿久津村267.5758.71,026.2631.024.9655.9623.3
北高根沢村1,140.31,486.92,627.21,201.042.31,243.81,224.1
熟 田 村778.6901.11,679.7791.2791.2784.0

 事項別

市町村名
昭和25年8月1日現在農地面積農地を買収された地主戸数売渡
自作地小作地自作地にも
小作地にも
入らぬ農地
個人地主法人団体
在村不在村在村不在村
阿久津村
北高根沢村
熟 田 村
1,360.7
2,627.2
1,551.9
165.5
214.7
129.4


1,526.2
2,841.9
1,681.3
159
262
169
139
205
289
9
24
19
2
5
949
1414
875

『栃木県農地改革史』より

表8 農地改革による自作・小作別農家の割合
『栃木県農地改革史』、『第5次栃木県農林統計年報』より作成
 

表9 経営農用地広狭別農家数(昭和29年)
郡市町村
 総 数

3  反

未  満
3反以上

5反未満
5反以上

1町未満
1町以上
1町5反
未  満
1町5反
以  上
2町未満
阿久津町1,048141137189144125
北高根沢村1,688119143319254244
旧熟田村9734989170107128
塩 谷 郡11,3801,3261,2712,2171,8591,687
栃 木 県123,56710,73913,12231,97926,69719,623

郡市町村2町以上

3町未満
3町以上

5町未満
5町以上

10町未満
10町以上

20町未満
20  町

以  上
例外規定
に該当す
るもの
阿久津町
北高根沢村
旧熟田村
塩 谷 郡
栃 木 県
  207
   394
   249
  2,156
 17,539
 1058
  194
  180
  821
 3,756

 20
  1
 42
 ―

 ―
 ―
 ―
 ―

 ―
 ―
 ―
 ―
 
 
 122

「栃木農林統計年報」昭和29年より