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農協の事業

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 北高根沢村農協の第一年度の業務報告書(史料編Ⅲ・一二一二頁)で、農業協同組合の事業のあらましを見てみよう。農協の固定資産は事務所や倉庫敷地など四九五坪、農業会から引き継いだ建物を含めて事務所、店舗、作業所四棟、倉庫五棟、農業倉庫七棟、精米機二台、精麦機三台、製粉機二台、トラック一台などであった。初年度の出資金は七一万五千円、設立時の出資金が固定資産と事業分量に対して小額すぎたので増資運動をしたという。
 事業の重点は食糧事情や経済事情からみて緊急性の強い「食糧一割増産運動」と組合員の要望の強かった仁井田駅前と上高根沢に支所を建設することに置いていた。農協はかつての産業組合と農会の事業を受け継いでいたから、その事業は広い範囲にわたっている。
 
一 生産指導事業
(イ)優良農機具、種子等の導入普及と農業技術の改善研究のため研究会、講習・講話会、各種品評会を開催。家畜の導入斡旋もした
(ロ)教育情報事業として、生活改善の講習会・座談会、慰安のための映写会の開催。各部落懇談会を開催して教育啓蒙につとめた
 
二 信用事業
 本村は単作地帯でシェーレ(農産物と工業製品との価格差)の影響が大きく営農資金に苦しんでいたが、農業手形の利用と所得税、次年度の営農資金のための貯金を奨励して、可能な限り資金の自給を図った。主要食糧供出代金の支払登録を一〇〇パーセント確保した
 
三 購買事業
 肥料を中心とする生産資材の確保と適切な時期の配給に努めトラックを利用して配達した。購買品の展示と販売のため店舗を新設して組合員の便宜を図った。肥料の指定配給登録は大体確保した
 
四 販売事業
 供出農産物の受払と完全保管に万全の注意を払い、代価の迅速な支払いをする努力をしたが、時に期待にそえず遺憾であった。南部地区出荷者のために向戸に指定倉庫を設置して便宜を図った。主要食糧の販売登録は九五パーセントを確保した。上高根沢と仁井田へ支所を設置するので農業倉庫の再配置工事に着手した
 
五 利用事業
(イ)供出の計画化、精密化に伴い食生活が変化し薯類、麦類の消費が増大してきたので、農業会から引続いてる精米事業の他に精麦、押麦、製粉、製麵等の事業を始め時宜に適した措置として好評を博した
(ロ)創業当時トラックは大修理をしたので十分稼働できなかったが、その後順調に使え、購買物資の部落配送を実施した
 
六 配当 普通配当金 設立当時の払込出資額に対し年五分の割
     特別配当金 米・雑穀出荷数一俵につき一円五〇銭の割
           麦類  〃       一円の割
           馬鈴薯・甘薯 〃      五〇銭の割
           肥料購入量一反歩に付  一円五〇銭の割
 
 この業務報告によると発足したばかりの農協が農民の支持を得て順調に事業を発展させている様子がうかがえる。とくに組合員の要望によって支所を増やし、倉庫の配置をかえ、さらに指定倉庫をきめて組合員の便宜を図るなどの、創設期の農協のいきいきとした動きが伝わってくる業務報告である。食糧供出代金の支払登録、販売登録、肥料の指定配給登録の確保は協同組合としての基本的事業の基礎が固まったことを示している。事情はすこしずつ違ってはいたが、熟田村農協も阿久津村農協も順調な発足であった。

図27 北高根沢村農協(昭和33年)(太田 藤田潔提供)