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苗取りと田植え

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 六月に入ると田植えの時期となる。田植えは、一毛作の田で六月上旬から中旬で、二毛作の麦田は六月中旬から七月初旬となる。苗が手で取れる一五センチメートルくらいの長さに伸びると、そろそろ苗取りとなる。その苗取り、つまり田植えの時期は、種蒔きをしてから四〇~五〇日目である。しかし、四四日目の苗は「死ない」といって嫌われた。
 苗取りや田植えは、一般的に共同で行うヨイドリで行なわれた。しかし、高根沢町では手間取りが広く行なわれ、地区によっては、南那須町の曲畑や福岡などから男女を問わずヒリョウドリ・ヒヨドリといって植え手に手間賃を支払った。
 田植え当日をナエビラキ(苗開き)とかカイノウ(開農)といい、当日は、植え手は五時頃には集まり、朝飯かお茶をよばれて、五時半頃には作業が始まる。はじめに、一日に使う苗を取り、その後田植えとなる。早朝取る苗をアサナエといい、暗いうちから提灯をかざして作業したこともあった。また、前日取った苗をヨイナエ(宵苗)といった。苗を結ぶ藁をネイバワラまたはナイバワラといい、普通糯藁を使ったが、この藁で足首や膝下を結んだ。これは、苗取りは下半身が痛くなり「ケンピキがさがんない」といわれ、足首や膝下に結んだのだという。
 家の人だけで苗取りをする場合は、ビニール製の肥料袋に籾殻を詰めて腰掛代わりにして苗取りをしたが、他の人を頼む場合には、腰掛けて苗取りをするようなことはなかった。
 苗を運ぶには、ナエヒキイタ(苗引き板)か苗引き舟、または二つのザル状のものに苗を入れ棒で担ぐナエカツギ(苗担ぎ)を使い、また用水に舟を浮かべて運んだりもした。また苗をそのまま川に流して運ぶこともあった。
 田植えの仕方には、昭和二七年頃まではオリッパカとアガリッパカ(台新田ではスリッパカ)があった。オリッパカは一般に植え手が七株程度植えながら後退して五列植え、横に移動しながら反対の畦まで植えて行き、後退しながらさらに横に移動して、植えて行く仕方である。幅の狭い田のときに行なわれたもので、田の形状を見ながら判断した。アガリッパカはオリッパカと同じように植えて行くが、畦を越えて次の田へ移動して植えて行くやり方で、植える面積は一定で、能率が上がる植え方であった。この植え方は田の面積が大きい時に使われるやり方であった。
 正条植は、綱などを用いて苗を規則的に植えるやり方で、これにはツナウエ(綱植え)・トサウエ(土佐植え)・バドウウエがあった。綱植えは、大正末期から昭和の始めにかけて一部で行われた植え方で、両側にオヤヅナ(親綱)を張り、親綱に付けた印に従い、タウエヅナ(田植え綱)を張り、その綱の印に従い後退しながら苗を植えていった。一人の植え手で平均七株ずつ植え付けた。綱植えは無駄な苗株がなく、田にきちんと苗が植えられ、さらには昭和初期に除草機の導入により普及した。
 しかし、綱植えは手間がかかるために土佐植え(親植え)に変わった。土佐植えは昭和初期から昭和四〇年中頃まで、広く行われた植え方で、これはカギ棒(三角定規)と基準綱で基準をきめ、四尺八寸の長さにした篠竹で間隔を測り、定規に綱を張りまず基準となる苗を植えて行く。基準植えの株と株の間隔をオオラジといい、基準植えした中を後退しながら苗を七株くらいずつ植える。これをコラジという。その後土佐式の応用として、四尺八寸の二倍の間隔で行なうようになった。
 また、バドウウエは、戦後の畜力除草機の導入により生まれた方法で、土佐植えの仕方を基本として、三条ごとに一尺二寸の広さを取って植えて行く。この間をバドウといい、ここの場所を除草機を引く馬が通った。
 なお、田植えの終わりはつゆ明けの頃で、夏至から一一日目の「半夏の日(半夏生の略)」までとされた。田植えの時の禁忌としては、「三日苗は植えるな」といい、苗取り後三日たった苗は植えるものではないといわれた。また、五月節句の翌日はボッパギといい「田に入ると足が腐る」といって農休日とした。
 田植えが終わると、サナブリが行われる。このサナブリには、各家々で行なうコサナブリとブラク全体で行うオオサナブリとがあった。田植えの終了を祝い豊作を祈願する。田植えに使った農具を洗い、まとめて納屋に納めてお神酒をかけた。また、苗二束(所によっては三束を縛って植上げ苗といった)をきれいに洗い、先を縛って平膳に載せ、お神酒とアンコロモチ(ネリモチ)を田の神様(大神宮様)に供えた。田植えで手伝ってくれた家にもアンコロモチを持って行く。また、ブラク単位でも集落内の田植えが終わった頃を見計らってオオサナブリが行なわれた。

図22 苗取り


図23 舟による苗運び


図24 田植え


図25 オリッパカ


図26 アガリッパカ


図27 ツナウエ


図28 トサウエ


図29 サナブリの植え上げ苗