蚕は年間を通じて三~四回飼育された。ハルゴ(春蚕)は五月初旬にハキタテし、六月下旬には繭の出荷となる。ハキタテ(掃き立て)とは、蚕の卵が産み付けられている種紙から、生まれたばかりのケゴ(毛蚕)を蚕座紙に掃き落とす作業のことで、養蚕における最初の節目の作業である。春蚕の時は、蚕の餌となる桑は畑で切って枝ごと与えられた。この時期は田植えとちょうど重なり大変忙しい時期でもあった。七月初旬からはナツゴ(夏蚕)の掃き立てが始まり、八月中旬までかかって出荷する。なお、飯室では夏蚕は、春蚕で桑を枝ごと与えるために、桑の葉が多く取れないことや時期的に病気も出ることもあり、また他の農作業との関係で飼わない農家も多かった。アキゴ(秋蚕)は九月初旬に掃き立てし、一〇月中旬に出荷となるが、夏蚕・秋蚕とも畑で摘んだ桑の葉を与えた。以上三回が普通であったが、たまに秋蚕が外れた時などに行なうのがバンシュウサン(晩秋蚕)である。時期としては九月下旬から始まり一〇月下旬(飯室では一〇月中~一一月末)には繭を出荷できるが、この頃になると桑の葉が少なくなり、霜で桑の葉が収穫できず、蚕を飼育することができないこともあった。このように、年間三~四回の飼育ではあったが、春蚕と秋蚕の二回というところも多かった。なお、各々の期間は掃き立てから出荷までは三〇~四〇日間を要した。