夏から秋にかけて山の権利を買い、九月~一〇月にかけて窯を築く。窯は山の中で炭材が集まりやすい低いところで、しかもやや傾斜した土地が選ばれた。窯の大きさとは、一坪の量の炭材が入るほどの大きさで、幅一〇尺奥行き一三尺程度であった。なおこの窯の大きさは、ちょうど一日で炭が焼ける量でもあった。一方、屋敷近くで炭窯を築くこともあったが、ここで焼く窯は、いつでも火の番ができるため、山に築く窯よりは大きく時間をかけて焼いた。炭窯を造る時は、炭材を積むまでは夫婦二人でもできたが、ハチアゲ(鉢上げ)の時には、一人二人では大変なため、木切りの人や炭焼き仲間など五~六人程度頼んで窯の上の部分であるハチ(鉢)を造った。
①型取り
窯を築こうとする位置の中心から縄を付けたブンマワシと呼ばれる棒で、まず直径一〇尺の円を描く、次に円周の一点を中心として直径三尺の円を描き、大きい円と小さい円を結ぶとちょうど卵型になり、小さいほうの円の先が焚き口となり、反対側か煙の出るクドとなる。
②トコボリ
唐鍬やサブロウを使って床となる部分の土を掘って行く。これをトコボリ(床掘り)という。その際、空気の対流を起こしやすくするために、炭材を入れる入口よりも後の煙突の方がやや下がり気味の三%勾配に掘るのがコツであると言う。
③クドづくり
煙りの出るクドは、窯の中でも重要な場所である。床掘りが済むと煙りが出る位置に、クド石を据える。これは火に強い石が良く、大谷石が使われた。下の方に横に窓を設け、空気が出るほうへ斜めに削った石を置く。次に、練った土を固めながらトックリのように煙突を作ってゆく。この後クド石側と煙突の上部から薪を燃やして土を焼き固める。これをしないで炭焼きをすると、土が崩れて煙突がつぶれてしまい、もう一度作り直さなければならなかった。
④ドイをつくる
窯の形に掘り終わると、練った土を煉瓦状にして、厚さ一〇センチメートル程度の壁を作る。壁のことをドイといい、前に使っていた窯の土を混ぜると良いといわれた。
⑤モャッ木を敷く
モャッ木とはソダ木のことで、平にした底に太さ二~三センチメートル、長さはまちまちで三〇~六〇センチメートルのまっすぐな枝を一面に平に敷き込んで行く。
⑥薪タテ
窯の中に長さ一尺七寸の炭材を立てるようにして並べて行く。その後薪と薪が動かないように間に細い薪を押し込んで、しっかりと固定する。
⑦薪を横積みする
立てた薪の上に横に薪を並べて行く。その際、それぞれの中心の位置に鉢までの高さの目安棒を二本立てておく。太い薪を並べた時には間に細い木を入れて、動かないようにした。
⑧キリコを並べる
横に置いた薪の上に木の枝を細かく切ったキリコを並べ、鉢の丸みが出るようにする。その際少しでも出っ張っているところは、ナタで細い薪を斜めに削って丸みを出した。この丸みがそのままハチの内側の丸みとなるわけで、大事な作業である。
⑨筵を敷く
キリコの上に筵か菰を敷く。これは、鉢の内側をきれいに作るためである。
⑩鉢づくり
あらかじめ用意した練り土と古い窯の焼け土を、混合して裾から載せて行く。その際、古い土が多いほど良いといわれた。土を載せ終わると、手製の杵で土を叩き固める。この時五、六人が回りながら均一に叩いて行く。その後も、丸棒で一〇センチメートル間隔に叩き、さらに平棒で叩く。鉢づくりは一日では終わらず夜には、筵を掛けて置く。こうすると叩いて浮き上がった土の水分が筵に吸収される。そして、翌日また叩くのである。
⑪焚き口をつくる
練り土を煉瓦状にして焚き口の部分に積んでゆき形を作る。
⑫屋根を架ける
雑木で柱や梁を架け、茅で屋根を葺く。茅を厚く葺くわけではないため、屋根の勾配は九〇度近く急勾配にして雨をしのいだ。
⑬鉢上げ祝い
鉢が出来上がると、手伝ってくれた人を家に呼んで、酒肴でもてなす。もてなすと言っても、酒と煮しめ程度であった。
⑭窯を焼く
この後、一〇日前後乾燥させてから火入れをする。新しく造られた炭窯の最初の炭焼きをハツガマ(初窯)といい、これは炭を焼くことよりもむしろ窯を焼くことが目的であり、この初窯の焼け具合が以後の炭焼きを大きく左右した。この初窯の方法は、まず焚き口のところで予備乾燥として、一日間程度薪を燃やし、その後焚き口に火をつけ本格的に燃やす。普通一日焼くのに対して、初窯の場合は三日間ほど焼き続けるという。差しかけた屋根の中央から紐に結んだ小石を鉢の上すれすれに吊し、鉢の縮み具合を見る。こうして初窯は終わるが、鉢にひび割れが出たときは、粘土に灰を混ぜてどろどろにしたものをヤカンに入れて、割れ目に流し入れる。乾いてから箒で掃くと割れ目が見えなくなったという。炭焼きをする者にとって、炭窯のひび割れは大変気になったようである。なお、窯については鉢の高さが低いもの、窯に湿気が少ないことが良い炭を作る条件とされた。