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炭を焼く

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 本格的に炭を焼き始めると、屋敷内での炭焼きにおいては、一回の炭焼きで五日間を要し月五~六回程度のペースで焼かれた。順序としては初窯ないしは前に焼いた炭を取り出すところから始まる。なお、炭焼きは夫婦二人で行うことが多かったが、人を頼んで三人で行う場合もあった。
 
①朝、初窯の焚き口を塞いだ大谷石を取り外す。
 
②焚き口から徐々に取り出し、男性が窯の中に入り麻袋(以前は茅で作った開いた炭俵)の上に炭を載せて外に出す。これを外で女性が受け取るといった作業を繰り返す。また、屑炭や粉炭は木製のリンゴ箱に入れて取り出した。
 
③取り出し終わると、窯の中にジョウロで水を蒔いた。これは埃を落ち着かせる目的と薪の水分と窯の水分をある程度均一にするためであるという。
 
④空気の流通を良くするため、細い枝を焚き口とクドの方向に並行に敷き詰める。その上に炭材が動かないように筵を敷く。
 
⑤一尺七寸に管切りした椚や楢を奥から順に立てながら詰めて行く。半分くらい詰め終わると、管切りした雑木を壁際に横積みにし、さらに立てた炭材の上の空間に六尺程度に切った細い枝を詰めて行く。これを焚き口近くでもう一度繰り返す。これも男性が中に入り炭材を並べて行き、女性が外で炭材を焚き口あたりに運ぶ。また、二人が窯の中に入り、一人の人が外で炭材を運ぶところもあった。
 
⑥焚き口の近くまで積み終わると、藁六束をほぐして炭材に立てかけるように並べる。さらにそこに管切った桜・栗の木の太くて堅い木を立てかける。焚き口部分は空気が入り火力が強いため、燃えきってしまわないように太い薪を立てかけた。
 
⑦いよいよ、焚き口に杉の枯葉や薪などを入れて燃やし、その日の午後には予備乾燥に入る。予備乾燥の時には、焚き口で火を燃し続け炭材の水分を抜き、クドのところは煙突を外し、四つ折にした炭俵を載せて空気の調節を図った。
 
⑧翌日いよいよ本焼となり、焚き口のところに四角い小さな石を二つ置き、その上に大谷石を置き練った土で間を塞ぎ口を閉める。口を閉める石は大谷石のように柔らかい石が良いとされ、堅い石だとかえって割れてしまうのだと言う。
 
⑨屋敷近くでの場合、点火してから二日間ほど焼くが、後半になると白煙が昇り、この時煙突を半分閉める。さらに、最後の頃になると煙が白から青色に変わる。煙が切れると同時にセイレンといって、焚き口を開けて空気を入れ温度を上げる。煙突の開け具合を調整しながらの作業は、神経を使うとともに長年の経験がものをいった。セイレンが終わると、口を閉め煙突の土管を外して、クドも塞ぐ。こうして、二日間ほど置いて冷ますと、六日目には炭を取り出し、次の炭焼きの準備となる。
 なお、炭を焼くにも、桜やソネなどの雑木よりも楢のほうが時間がかかり、さらに椚のほうが時間を要したという。堅い木は良質な炭となり、良質な炭ほど焼くのに時間がかかるものなのである。
 
⑩炭が出来上がると、外に置き雨よけの覆いを掛けて置く。炭俵は、近所の農家に依頼し作ってもらった。炭は一五キログラムに詰められ一般的に角俵は良質な炭を入れ、丸俵には粉炭やザク(雑炭のこと)を入れた。こうしてできた炭は、近くの仲買人が買い集めに来た。
 なお、良い炭の見分け方としては、炭の小口が菊の花のように割れていて、皮の手前で割れが止っているもので、叩いてチンチンという音のするものが良いとされる。悪い炭の音は、ボコボコと言う音がするという。

図55 炭焼きの行程。炭を焼いた後新たに炭を焼く(南那須町森田 植村家)