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正月

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 もともと正月は歳神様をまつる行事で、ごちそうを作って神様に供え、神様と同じ食事をすることで、その加護を願ったものである。一年中で一番のごちそうが作られるのも正月であった。どの家庭にも正月の味があり、子供にとっても大人にとっても楽しみなものであった。料理の準備は前年の暮れから行ない、三〇、三一日の内に女性が料理を作っておいた。大晦日は年越しそばを食べ、新年を迎えた。
 正月三ケ日は、同じものを食べることが多く、朝は雑煮、昼夜は白米飯やうどんといった内容のものである。雑煮は、焼いた切り餅と、里芋、人参、大根、ゴボウの具を基本に、長ネギ、三つ葉、鶏肉といったものが入り、味は「家例」と称して醤油味の家が多い。なお、三ケ日の炊事は一家の長である男性の役割でとされたが、実際には女性が行うことが多かった。正月三ケ日の間に食べるものは、家によって決まりがある場合が多く、中阿久津では、餅は食べず、供物は赤飯とけんちん汁で、昼と夜は白米飯やうどんを食べるという家が多いという。
 おせち料理はそれぞれの地域や家庭で伝承されてきたものである。もともとは節日に神様に供えた食べものを指していたのが、しだいに正月の食べものを意味するようになったといわれている。暮れに作り重箱などに入れ保存し、年始客の酒の肴として振舞われ、大量に作っておいて正月の間は家族で食べ続けたものであった。
 よく聞かれるおせち料理には、ゴボウと人参のきんぴら、水羊羹、白南京豆のきんとん、昆布巻き、数の子、サガンボなど魚の煮付け、大根と人参のなます、お煮しめ、納豆大根、塩引サケの粕汁などがある。縁起のよい材料で作られるのが特徴で、昆布は「喜ぶ」、数の子は「子孫繁栄」、きんとんの豆は「まめまめしく」など、それぞれに意味がある。
 七日正月の朝に食べるのは、七草粥であり、七草雑炊ともいわれる。一般に春の七草は、「セリ、ナズナ(ペンペン草)、ゴギョウ(ハハコグサ)、ハコベラ(ハコベ)、ホトケノザ(タビラコ)、スズナ(蕪菜)、スズシロ(大根)」というが、実際には里芋や人参、ネギ、白菜、アブラナ、ゴボウなど七種類の野菜ですませている。野菜を刻むときには「七草なずな、唐土の鳥が、渡らぬ内に、ストトンストトン」などと唱え事をした。粥には小さくした切り餅を入れる家もあった。この日七種の草を入れた粥を食べることで、一年間の無病息災を祈った。
 

表2 年中行事の食べもの(太田)
   行事   新暦  料理(内容)
1月正月元日(1日)雑煮(切り餅・里芋・大根・人参・ゴボウ・鰹節・醤油)、おせち料理(羊羹・きんとん・キンピラ・ナマス・昆布巻き・数の子・煮しめ・納豆大根・鮭の粕汁)
白米飯、おせち料理
白米飯、おせち料理、焼き鮭
山入り(6日)雑煮
七草(7日)七草粥(人参・ゴボウ・大根・白菜・セリ・アブラナ・餅・米)
鍬入り(11日)雑煮
トリマデ(14日)団子
小豆粥(15日)小豆粥
二十日正月(20日)汁粉
2月節分(3日)白米飯、煮しめ、焼き鰯
コトハジメ(8日)そばっかき
初午赤飯、シモツカレ
3月節句(3日)菱餅(白胼、草餅)
金毘羅様(10日)雑煮
4月お釈迦様(8日)草餅
5月節句(5日)柏饅頭
7月天王様(14日)赤飯
8月カマノフタ(1日)饅頭
盆迎え(13日)白米飯、カボチャ、昆布・南京豆・ジャガイモの煮物、野菜のてんぷら、キュウリの胡麻和え、キュウリモミ
つゆかけうどん(ナス・南京豆の味噌汁)、
(14日)あんころ餅
(15日)黄な粉餅
盆送り(16日)団子、うどん
9月風祭り(1日)赤飯
彼岸(23日)おはぎまたは団子
十五夜小豆飯、煮しめ、蒸かし薩摩芋、茹で栗
10月十三夜おはぎ、けんちん汁(里芋・大根・人参・蒟蒻・豆腐)
津島神社秋祭り(18/19日)雑煮、甘酒
エビス講(20日)白米飯、煮しめ、焼き魚
11月冬至白米飯、トーナス(カボチャの煮物)
油シメ白米飯、魚、煮しめ
12月カワピタリ(1日)雑煮
コトジマイ(8日)そばっかき
ススハライ(13日)味噌蒟蒻
納豆寝せ(25日)
餅つき(28日)白餅
大晦日(31日)ぶっきれそば(けんちんそば、すっぽこそば〈兎肉〉、鳩そば)


図29 おせち料理(寺渡戸)


図30 おせち料理(寺渡戸)