正月三ケ日は、同じものを食べることが多く、朝は雑煮、昼夜は白米飯やうどんといった内容のものである。雑煮は、焼いた切り餅と、里芋、人参、大根、ゴボウの具を基本に、長ネギ、三つ葉、鶏肉といったものが入り、味は「家例」と称して醤油味の家が多い。なお、三ケ日の炊事は一家の長である男性の役割でとされたが、実際には女性が行うことが多かった。正月三ケ日の間に食べるものは、家によって決まりがある場合が多く、中阿久津では、餅は食べず、供物は赤飯とけんちん汁で、昼と夜は白米飯やうどんを食べるという家が多いという。
おせち料理はそれぞれの地域や家庭で伝承されてきたものである。もともとは節日に神様に供えた食べものを指していたのが、しだいに正月の食べものを意味するようになったといわれている。暮れに作り重箱などに入れ保存し、年始客の酒の肴として振舞われ、大量に作っておいて正月の間は家族で食べ続けたものであった。
よく聞かれるおせち料理には、ゴボウと人参のきんぴら、水羊羹、白南京豆のきんとん、昆布巻き、数の子、サガンボなど魚の煮付け、大根と人参のなます、お煮しめ、納豆大根、塩引サケの粕汁などがある。縁起のよい材料で作られるのが特徴で、昆布は「喜ぶ」、数の子は「子孫繁栄」、きんとんの豆は「まめまめしく」など、それぞれに意味がある。
七日正月の朝に食べるのは、七草粥であり、七草雑炊ともいわれる。一般に春の七草は、「セリ、ナズナ(ペンペン草)、ゴギョウ(ハハコグサ)、ハコベラ(ハコベ)、ホトケノザ(タビラコ)、スズナ(蕪菜)、スズシロ(大根)」というが、実際には里芋や人参、ネギ、白菜、アブラナ、ゴボウなど七種類の野菜ですませている。野菜を刻むときには「七草なずな、唐土の鳥が、渡らぬ内に、ストトンストトン」などと唱え事をした。粥には小さくした切り餅を入れる家もあった。この日七種の草を入れた粥を食べることで、一年間の無病息災を祈った。
表2 年中行事の食べもの(太田)
行事 | 新暦 | 料理(内容) | ||
1月 | 正月元日 | (1日) | 朝 | 雑煮(切り餅・里芋・大根・人参・ゴボウ・鰹節・醤油)、おせち料理(羊羹・きんとん・キンピラ・ナマス・昆布巻き・数の子・煮しめ・納豆大根・鮭の粕汁) |
昼 | 白米飯、おせち料理 | |||
晩 | 白米飯、おせち料理、焼き鮭 | |||
山入り | (6日) | 朝 | 雑煮 | |
七草 | (7日) | 朝 | 七草粥(人参・ゴボウ・大根・白菜・セリ・アブラナ・餅・米) | |
鍬入り | (11日) | 朝 | 雑煮 | |
トリマデ | (14日) | 晩 | 団子 | |
小豆粥 | (15日) | 朝 | 小豆粥 | |
二十日正月 | (20日) | 朝 | 汁粉 | |
2月 | 節分 | (3日) | 晩 | 白米飯、煮しめ、焼き鰯 |
コトハジメ | (8日) | 朝 | そばっかき | |
初午 | 朝 | 赤飯、シモツカレ | ||
3月 | 節句 | (3日) | 菱餅(白胼、草餅) | |
金毘羅様 | (10日) | 雑煮 | ||
4月 | お釈迦様 | (8日) | 朝 | 草餅 |
5月 | 節句 | (5日) | 柏饅頭 | |
7月 | 天王様 | (14日) | 赤飯 | |
8月 | カマノフタ | (1日) | 饅頭 | |
盆迎え | (13日) | 昼 | 白米飯、カボチャ、昆布・南京豆・ジャガイモの煮物、野菜のてんぷら、キュウリの胡麻和え、キュウリモミ | |
晩 | つゆかけうどん(ナス・南京豆の味噌汁)、 | |||
盆 | (14日) | あんころ餅 | ||
盆 | (15日) | 黄な粉餅 | ||
盆送り | (16日) | 昼 | 団子、うどん | |
9月 | 風祭り | (1日) | 赤飯 | |
彼岸 | (23日) | おはぎまたは団子 | ||
十五夜 | 晩 | 小豆飯、煮しめ、蒸かし薩摩芋、茹で栗 | ||
10月 | 十三夜 | 晩 | おはぎ、けんちん汁(里芋・大根・人参・蒟蒻・豆腐) | |
津島神社秋祭り | (18/19日) | 雑煮、甘酒 | ||
エビス講 | (20日) | 白米飯、煮しめ、焼き魚 | ||
11月 | 冬至 | 白米飯、トーナス(カボチャの煮物) | ||
油シメ | 白米飯、魚、煮しめ | |||
12月 | カワピタリ | (1日) | 雑煮 | |
コトジマイ | (8日) | そばっかき | ||
ススハライ | (13日) | 味噌蒟蒻 | ||
納豆寝せ | (25日) | |||
餅つき | (28日) | 白餅 | ||
大晦日 | (31日) | 晩 | ぶっきれそば(けんちんそば、すっぽこそば〈兎肉〉、鳩そば) |
図29 おせち料理(寺渡戸)
図30 おせち料理(寺渡戸)