食生活のなかで塩はもっとも欠かすことのできない基本の調味料である。普段の食事のなかでも、様々な料理の味付けのほか、味噌や漬物など自家で作る食品の原料として、大量に使用されたり、饅頭などのあんこの甘さを際立たせたりするためにも、やはり少量の塩が利用された。
昭和三〇年代頃までは、塩といえば叺入りの精製しない粗塩で、味噌炊きや漬物仕込みのときに大量に購入したものだった。購入した塩は、味噌部屋などで叺ごと保存し、使用する分だけを小さな甕に移しかえ、小出しにして台所に置いた。粗塩は、湿気を帯びるとニガリを生じるので、叺のまま、またはザルに移して、甕の上に置いておき、したたり落ちるニガリを甕に溜めておいた。溜まったニガリは、豆腐を作るさいに凝固剤として使用した。