人の出入りが少なく顔なじみばかりで、しかも相互扶助の意識が強いムラは、余所者に対しては排他的だった。したがってムラに移り住もうとする者は、何らかな手続きを経てムラ人から承認を得る必要があった。こうしたムラ入りの作法で一般的なものは、鎮守社の祭りやムラの寄合いなど各イエの主たちが集まる席上に、酒を持参しブラク長などを通じて紹介してもらうことである。例えば、太田の東ブラクの場合、ブラクへのムラ入りは、ブラクの総会に酒を持参した。一方、西ブラクの各班では、班ごとに新年会・花見・忘年会を実施するので、班への仲間入りはそうした席上班長を通じて班の人に披露してもらっている。なお、上高根沢では「ワラジを抜く」という言葉が伝承されている。ワラジは長い距離を歩く際の履物であり、ワラジを抜くということはそこに落ち着くことをいい、転じて外部からの移住者を意味する。昭和初期頃まで用いられた言葉であるといい、有力者の後見を得てムラに定住したという。
花嫁や花婿の場合も新しくそのムラの一員になるということで、ムラ入りの作法をとったものである。この場合は仲間入りと称し、組(班)の者への紹介が中心である。ひとつは披露宴に組内の主たちを招待することによって嫁婿を披露し、さらに披露宴の最中にオジやオバなどに案内されて組内をまわる方法が取られた。