分家を出すイエは一般的には裕福な地主といわれる。反対に土地をあまり持たないイエでは、分家を出すことが少ない。分与する土地に余裕がなく、分家を出していくと本家の土地所有が少なくなり本家が成り立たなくなる危険性があるからである。しかし、中には大地主でありながら分家をほとんど持たないか、出しても一・二軒と少数しか持たないイエもある。例えば、奉公人分家の所で紹介した上高根沢のSY家は、その典型例である。SY家は、血縁分家を持たず、非血縁分家、つまり奉公人分家を二軒持つだけである。同じ例は、隣りの芳賀町にも見られる。芳賀町給部の綱川家、同町芳志戸手彦子の大島家、同高田の斎藤家などその地の草分けとされ、江戸時代名主を務めた旧家では、分家をほとんど持たない。代りにマエジ(前地)と呼ばれる小作農家を抱えていたのである。上高根沢のSY家や芳賀町の綱川家など、いずれも土地が分散縮小するのを防ぐために分家を出さず、農作業など必要な労力は奉公人分家や前地より得ていたのである。
図25 分家を出さないイエ