イエとイエとが円満な関係にあり、いつでもお互いに助けあうことが出きることは、ムラ社会を生きる上で大切なことである。そのためには、日頃より細やかな気配りが必要であり、葬式や御祝儀をはじめ、何か事がある時には当家の気持ちを表わすための贈り物をし、また、それに対する返礼を惜しまなかった。そして、適切な贈答を怠ると、相互扶助同様に「義理を欠く」と言われ蔑まされた。そこで、葬式はもとより御祝儀家の新築、子供の誕生・初節句・進学など多くの人から贈答を受けた際には控帳を残し、後日相手側で同じような出来事があった際に、義理を欠かないように参考にしたイエも多い。
ところで、贈答の度合いはどこのイエでも同等とは限らず、嫁の実家とか分家したてのイエなど、親戚付き合いの強いイエほど金額や品物が高価となる。また、子供の誕生・初節句・結婚などの場合、長男・長女は他の子供に比べ贈答が多くなる。
贈り物を受けたイエでは、それ相当のオカエシ(お返し)をするのが常である。お返しの品は、祝儀・不祝儀によって異なるが、祝儀には餅や赤飯を付ける場合が多い。なお赤飯の場合、重箱に入れて贈ることが多かったが、この重箱を返す場合、ツケギと称して小物を添える習しがある。本来ツケギとは、イロリやカマドへの点火用具であり実用的な小物で重宝がられた。その後マッチが登場することにより、ツケギの利用はなくなったが言葉だけが残り、御礼の気持ちを表す小物のことをツケギと呼ぶようになった。