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若水汲み

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 若水汲みは正月最初の儀礼である。その年最初に汲む水を若水といい、若水には活力がみなぎっているともいわれている。若水汲みは一家の長などが年男となり、「若水」と墨書した手桶を持って井戸水を汲み上げてくるものである。中阿久津の野中家では年男が「くるっと回るはねつるべ 黄金の水を汲むぞ嬉しき」と唱えてから若水を汲むといい、また、米を入れた枡を井戸神に供えてから若水を汲んだという家もある。
 汲んできた若水は、風呂やお茶、雑煮などに少しずつ入れて用いる。元日に沸かす朝風呂は、神体を清める意味合いのものであり、真っ先に年男が入り、入浴を終えた年男はお茶を沸かしたり、雑煮などの準備に取りかかる。準備が終ると、年男が雑煮を御供鉢などに盛り、お茶、お神酒などとともに歳神棚などに供え、新年の神祭りを行う。なお、三が日の間、雑煮の他に昼飯、朝昼の主食(うどんや蕎麦を作ることが多かった)も神棚や門松(門松の場合は縛りつけた杭の上に供え、供え役には子供がなることが多かった)などに供えたもので、御供鉢にたまった供物は、四日の朝に下げて雑炊にして食べた。
 神祭りの後、家族全員がそろって豆をつまんでいただき、新年のあいさつをかわしアサイワイ(朝祝い)をする。こうして新年のあいさつをした後、お神酒をいただき雑煮を食べた。雑煮は醤油汁に切り餅、里芋、大根、ネギ、人参、ゴボウ、青菜などを入れたものが多い。
 ところで、若水汲みをはじめ正月の行事一切は、年男がつとめ女性は表向き手を出さない。「正月くらいは女の人を休ませるためだ」などと理由を述べることが多いが、女性には参加させず男性のみが行う背景には、古来の「女性は不浄」とした考えによるものがあった。