ビューア該当ページ

作り物

574 ~ 576 / 766ページ
 正月一四日には歳神棚をはじめ、松を下げた後に供える粟穂・稗穂や粥バシ、ハラミバシ、マユダマ(繭玉)などの飾り物を作る。これらを総称して「小正月の作り物」ともいう。
 マユダマは、米の粉で作り、本来、繭の形にした団子をいったものであるが、高根沢町ではダンゴモチ(団子餅)といった所もある。これをミズノキや樫の木に刺し、「神様のいる所には全部飾る」とも「正月のお供えをした所には全部供える」といい、歳神棚をはじめ松飾りをした所に供えた。繭玉は、もともと繭の増産を願って作ったものであるが、高根沢町のように養蚕がそれほど盛んでなかった所では、丸い形をしたものが主流となり、里芋や米、人参、大根などの増産を併せ願って、根菜類の形や米俵の形を作るようになった。
 マユダマの中でも、お椀ほどの大きな団子を六個樫の木に刺したものをオムツラ様、あるいは訛ってオムヅラ様といっている。これを歳神棚や産室ともなる納戸の入口に飾るならわしがある。オムツラとは、一般には冬の南西の夜空に輝く六連星(昴のこと)を指すが、六個の団子を剌したオムツラ様は、昴に対する信仰より生じたものといわれる。この風習は、栃木県では矢板市から高根沢町、芳賀町、真岡市あたりにかけてのみ見られる。
 こうしたマユダマは、ドンドン焼きで燃やす正月飾りを集めに来る子供たちに与えたり、あるいは、「マユダマを食べると風邪をひかない」ともいわれることから、どんどん焼きに持参し残り火にかざして焼いて食べるならわしがある。なお、米の粉の団子ではなく、餅を薄く板状に伸ばしたものを小さくひし形に切り、それをマユダマの代わりに供えた家もある。
 粟穂・稗穂は、粟の穂、稗の穂が訛ったもので、粟や稗をはじめとする作物の方策をあらかじめ祝って飾ったものである。これらは、山入りの日に切取ってきたノデッポウで作る。ノデッポウの枝を長さ五センチメートルほどに切り、先を削りかけたものをアワボとし、表面に切りこみを入れただけのものをヒエボとし、それらを竹の枝にさしたものである。アワボ・ヒエボの飾りは、松飾りをした所に供えたが、農作物がよく実るようにと庭先に積み上げた堆肥の上にも飾った。
 粥ばし・ハラミバシは、一五日の朝に炊く小豆粥をかき混ぜたり、食べたりする際に用いる儀礼用の箸である。材料は、アワボ・ヒエボと同じくノデッポウである。粥バシは、ノデッポウの木を長さ二〇センチメートルほどに切り、前半分の皮をむき、先端に十文字に切りこみを入れたものである。
 一方、ハラミバシは、ノデッポウの木を同じく長さ二〇センチメートルほどに切り、それをさらに割ってから、妊婦の姿とも十分に実った稲籾の形ともいわれるが、それらに似せて両端を細く中央をふくらむように削った箸である。

図9 歳神棚に供えたマユダマ(大谷)


図10 マユダマ(飯室)