その後、夜その山道を一人で歩く時は駈け上がるように通れと地元の人々が言うようになった。
(『子どもが書いた ふるさとの伝説集』)
坂や峠は、橋と同じように住む世界の境界を意味していた。こちらとあちらの境であり、異次元への入り口であり、異次元からの出口であった。だから、坂や峠には異様な力が働いており、そこを通る人間が急に消えてしまったり、突然死んでしまったりする場所であった。人々は道を支配する神が住むと考え、「賽の神」や「道祖神」、あるいは、「お地蔵様」を道の傍らに建てて交通の安全を祈ったのである。
この伝説は、石に対する信仰は薄いようであるが、交通交易の盛んな地域であったかつての高根沢町の風土を象徴しているような伝説である。