ところが、ある時、三人の男たちが魚を捕ろうと沼に毒を撒いた。すると、沼の祟りがあったのか、三人ともその沼に落ち自分たちが撒いた毒を浴び体の痺れがとまらず、村にもいることができなくなってどこかへ行方をくらましたそうである。
(『高根沢町の伝説集』)
古代から民間信仰と深い関わりを持ってきた陰陽道信仰の教典とも言える『簠簋内伝』(宿曜という占星術を解説したもので、鎌倉時代末期に書かれたと言われている)に、「辰狐」という神が出てくる(高村禎里『狐の日本史』による)。つまり、狐と竜(辰)が強く結びついた信仰は、古くからあったのである。民間信仰の一つである農耕信仰の世界でも、狐と蛇が密接な関わりを持って、「稲荷神が乗る川蛇様」というところにはかなり古い伝承が残っていると考えることができる。また、禁忌を冒して罪を得るという伝承も、その場所の神聖さを証明をするものである。
豊作をもたらす水への畏敬の念と稲荷信仰とが結びついて、独特の伝説となったのであろう。
図9 古い伝説を残す岩清水稲荷(寺渡戸)