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〔塩地蔵〕

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   むかし、西根に住んでいた男が手にできたいぼで悩んでいた。ある時、その男の夢にお地蔵様が現われて「海水で手を洗え」と言って消えた。男は大喜びで、わざわざ海水を汲んできて手を洗うと嘘のようにいぼが消えてしまった。
   その噂を聞きつけた人々がお地蔵様のご利益にあずかろうと、その男が信心していたお地蔵様に塩をお供えするようになり、いつしか「塩地蔵」と親しまれるようになった。
(『子どもが書いた ふるさとの伝説集』)

 
 東京都足立区にある西新井大師の「塩地蔵」も、同じような伝説を持ち人々に親しまれている。
 ある出来事を通して霊験あらたかな神仏が誕生するという伝承は、その神仏の霊力を教え広める人々が宣伝のために物語として作り変えたことと深く結びついている。こうした神仏の霊験を体験するのは多く女性であった。女性の物語の方が耳の文芸としても記憶に残りやすい。また、地蔵信仰は、子供と深く結びついているところから、多くは安産祈願を中心にして、女性たちが信仰してきた世界でもある。しかし、この伝説では、神仏の霊験を体験する主人公が男性であるところに、その特徴を見ることができる伝説である。

図10 今も参詣者が絶えない塩地蔵(上高根沢)