こんもりした森があり薄暗い中を一本の道が通っていた。近くには墓もあって、昼でも不気味であった。ある夜、一人の男がその道を通ると、お花という娘が赤ん坊を抱いてぽつんと立っていて、「しばらくの間、この子を抱いていてくれませんか」と男に赤ん坊を預けてどこかへ行ってしまった。
男は言われたままに赤ん坊を抱いてお花の帰りを待っていると、赤ん坊がだんだん重くなり、気がつくと地蔵様に姿を変えていた。
(『子どもが書いた ふるさとの伝説集』)
墓もまた橋と同じように、異界と交流する場所のひとつである。
子供の生めない女性が、その悲しみを石の赤ん坊に託して男たちに訴えるという伝説は国内全域にある。しかし、地蔵に赤ん坊が変わるという伝承は数少ない。
石のままでは恨み辛みの重苦しさが消えないと受けとめた人々の温かさが地蔵信仰と結びつき、「地蔵様への変身」へと伝説を変えていったのであろうか。