ビューア該当ページ

〔貴人・偉人伝承〕

760 ~ 760 / 766ページ
 歴史の上で非業の死を遂げたり数奇な運命をたどった人物に特別な思いを抱くのは、私たち人間の自然な感情であろう。いかに生きるべきかという問題はいかに死ぬべきかという問題と繋がっている。幸福な人生は万人の願いであるが、幸福な人生がほとんど稀であることもまた事実である。私たちは幸福な人生を願いつつも、悲劇の一生を終えた人物に人生の意味を見い出し、明日を生きる糧としてきたのである。
 数奇な運命をたどった歴史上の人物は、歴史の上では不幸であっても、伝説の世界では歴史的事実を踏まえながらも、人間的には幸福な世界を演じてゆく。源義経の物語に代表されるような「判官贔屓」が、伝説と歴史の間に繰り広げられてきた。
 歴史上有名でなくとも、地域にも数奇な運命をたどった人物がいれば、伝説はその人物に特別席を用意して、地域の人々に明日を生きる力を与えていたのである。