祖先の誕生

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海中に築かれた人工島のさなかにも、はたまた高い都会のビルの屋上の一隅にも、太陽の光りと水分が与えられるところには、いつしか雑草が生えそだつ。風に運ばれ、名も知らぬ植物の種子が、いつの間にか、このようなところにまでやってきて力強く成長しているのである。不思議にもみえるが、またしごくあたりまえのことでもある。
 長い地質時代を経て、すっかり表面を動植物でおおわれた日本列島のどこかに、われわれの祖先たちが、どこからか渡来してきたとしても不思議ではない。しかしその人びとの原住地や、渡来の時期・場所などについてはまだわかっていない。偶然にたよる遺跡・遺物の発見と、限られた範囲での発掘調査という現状では無理もないことであろう。その遺物といっても、それは石器に限られ、土器はまだつくられていない。われわれはこの時代を無土器時代とよび、土器をもつ縄文・弥生時代と区別する。足跡も何ひとつ残さず、住いも簡単な当時の人びとは、ただひたすらに海岸・山野に食糧を求めて過ごす日々であったにちがいない。さいわいそのころの遺物が一~二点、宝塚市内にもみつかっている。