また基盤岩類は固結が完了しているといっても、断層運動による破砕や鉱泉の作用によって風化のいちじるしい部分があり、山地災害の一因となっている。太多田川に沿う断層谷はその典型である。さらに六甲山地の花こう岩体は全体に細かい節理が発達し、巨視的にみると、砂を盛りあげたものと変わらないともいえる。
武庫平野を埋める被覆層は、新第三紀中新世の神戸層群、第三紀末から第四紀前半にわたる大阪層群、第四紀中期以降の段丘層と、現在の河川の運搬してきた砂礫(されき)粘土よりなる沖積層に区分できる。
神戸層群は市域内にはほとんど露出していないが、武庫平野の地下には伏在する可能性がある。この地層は比較的固結が進んでおり、普通の構築物の基礎としては、岩盤として扱われる。しかしながら凝灰岩や凝灰質泥岩の部分で地すべりを起こしやすく、また透水性も悪いため、地下水の水源としての期待は薄い。
逆瀬川に沿ってさかのぼると正面にみえる甲山(かぶとやま)は、ヘルメット型の特異な山容で市民に親しまれているが、これは二上山(奈良県)・屋島(香川県)などで代表される瀬戸内火山系の一員として、約一五〇〇万年前に噴出した安山岩の残骸(ざんがい)とでもいうべきものである。というのは、現在の地形は、噴出した熔岩流の部分がすでに削りとられ、火山の噴出孔の部分にあたる岩頸(がんけい)部が、緻密(ちみつ)で固いために浸食に対する抵抗力が強く、風化分解しやすいまわりの花こう岩が浸食されたのちも突出して残ったのである。このような火山岩体は、形成年代からいうと被覆層のなかに入るが、性質からいうと基盤岩と同様である。
大阪層群は、一般に「洪積層(こうせきそう)」とよばれているもので、固結度も低く、孔隙率(こうげきりつ)も大きいので滞水層となり、地下水水源として利用されている。
段丘層は、六甲山地の縁辺部の上ケ原段丘を代表とする中位段丘、武庫平野内に広く台地をつくる伊丹段丘とよばれる低位段丘などの平坦(へいたん)面を形成し、比較的分布は広いが、一般に一〇メートルに満たない薄層が多い。六甲山地内の高所に点々と分布する砂礫層は、大阪層群に属するものと、高位段丘層に属するものとがある。
沖積層は、海岸平野部では粘土層とそれをおおう三角州の砂礫層よりなり、軟弱で、地盤沈下を起こしやすく問題の多い地層であるが、市域内のものは武庫川の氾濫原(はんらんげん)をつくる川床の砂礫層だけである。
山地と平地を境する有馬―高槻構造線や、山地内の断層沿いには、斜面崩壊による崖錐(がいすい)性の堆積(たいせき)物が部分的に発達している。このような場所は、山崩れ、土石流などの山地災害の危険をはらんでいる。
以上概説した宝塚市とその周辺に分布する基盤と被覆層の総括を表1にしめした。第二節で各系統について広い視野からややくわしく述べよう。
表1 宝塚市周辺の地質系統とおもな地史
地質年代 | 地質系統 | おもな地史 | ||
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新生代 | 沖積世 | 沖積層 | 武庫平野の形成 | 被覆層 |
洪積世 | 段丘堆積物 | 段丘の形成 | ||
鮮新世 | 大阪層群 | 第二瀬戸内海時代 | ||
中新世 | 甲山安山岩 | 瀬戸内火山岩の噴出 | ||
神戸層群 | 第一瀬戸内海時代 | |||
新生代古第三紀 | 岩脈類 | 岩脈と鉱脈の生成 | 基盤岩類 | |
古宝山流紋岩 | 流紋岩類の第二期噴出 | |||
中生代白亜紀 | 六甲花こう岩 | 深成岩類の貫入 | ||
有馬層群 | 流紋岩類の第一期噴出 | |||
大山脈の形成 | ||||
古生代ペルム紀 | 丹波層群 | 地向斜の広い海の時代 |