北摂山地の流紋岩類には、火山砕屑岩のほかに流紋岩熔岩があり、火山砕屑岩との関係から、二つの時期のものに識別される。
旧期流紋岩熔岩は、惣川沿いの砕石場から宝塚高原ゴルフ場にかけての地域に、広く分布する。北部で、長谷東方から猪名川町万善(まんぜん)にかけて分布するものも同岩質のものであり、最明寺滝付近などにも小さな露出がある。岩石は新鮮な部分で青みを帯びた灰色を呈し、数ミリメートル大以下の石英・長石斑晶をもっている。風化部では灰白色をとり、流理構造が明暸になってくる。熔岩流の周辺部では球果構造が発達していて、球果の直径は大きいものでは一センチメートル以上となる。顕微鏡下では、石英・長石のほかに、少量ではあるが、ジルコン・輝石・褐簾(かつれん)石などが認められた。石基は微晶質~隠微晶質である。
旧期流紋岩熔岩の噴出時期については、中山台の南で、凝灰質泥岩と指交関係で露出しているところがみられ、また熔岩中に、凝灰質泥岩を捕獲岩としている部分が観察されることなどから、凝灰質泥岩の堆積末期のものと推定している。
古宝山を構成する熔岩は、淡紫色~紫色の特徴ある色調の岩石で、流理構造が明瞭な流紋岩である。古宝山北東麓(ろく)の桃堂池(ももんどいけ)付近から南麓へかけては、自破砕熔岩の部分がみられるが、この部分では、変質により緑灰色化した岩片が混り、一見角礫岩のようにみえる。熔岩周辺相には球果構造や、晶洞(しょうどう)が発達している。顕微鏡下では微晶質から隠微晶質の石基中に、長石・石英の斑晶がみられる。北摂山地では、玉瀬付近の多結晶凝灰岩を貫いており、新しいことがわかる。
有馬層群最上位の凝灰角礫岩層との関係は分布地がちがっているのでよくわからないが関連地域の帝釈山地の金剛童子流紋岩と岩質が共通するので、有馬層群形成以後の火山活動の産物と考え、古宝山流紋岩と名づけた。
表2で古宝山流紋岩を、花こう岩類より後期のものとしているが、有馬層群の火山砕屑岩の熔岩が、しばしば花こう岩類の貫入による熱の影響を受けてホルンフェルス(再結晶した細粒の石英・長石・雲母の集合体)化しているのに対し、古宝山流紋岩では、熱的影響が認められないからである。