大地のうねりのほかに、もう一つ武庫川の流路を規定しているものがある。それは最初にもふれたように、まるで大地に鋭い刀で彫刻したような直線的な谷である。そして武庫川に限らず、西南日本の大きな川の水系をたどると、いちじるしく蛇行する本流と、それを斜に切る直線的な支流とからなりたっていることがわかる。
この大地の割れめのような直線谷が、実は断層運動によって破砕された弱線部を流水が削りとった断層谷であることがはっきりしてきたのは、比較的最近のことである。
これらの直線谷の特徴は、宝塚市域を走る十万辻断層や中山断層のように北西から南東へ走るものと、箕面(みのお)山地の北側を限る五月山(さつきやま)断層のように北東から南西へ走るものの二系統があることで、武庫川源流部の篠山盆地と三田盆地の間の山地を刻む直線谷は後者の系統に属する。
このような二系統の断層は、この地域だけではなく、中部地方から中国地方にわたって広範囲に大小さまざまなものがあり、近年になって空中写真の活用によって急速に姿をあらわしはじめたが、ついにアーツの映像がその全貌(ぜんぼう)をしめしてくれたのである。それはまさに「傷だらけの日本列島」を浮き彫りにするものであった。
その主なものを取りだしてみると、図15のように、極めて規則正しい格子模様をつくっている。そしてそれらのいくつかに沿って、矢印(写真22)でしめすような方向に水平にずれていることが確認されるようになった。それによると例外なく、北東―南西方向のものは右ずれ(断層のうえに立つ時、右側の地塊が手前方向に動くような運動方向をいう)、北西―南東方向のものは反対に左ずれとなっている。大地を広範囲にわたって十文字に割り、しかもその割れめにそって、このような規則正しい運動をするのは、地殻のこの部分が、ほぼ水平に東西方向に圧縮されて縮んできたからであるとしかほかに考えようがない。
十万辻断層はこのような割れめの一つであって、地形からみると、左ずれの運動をしめしながら、満願寺北方から、千刈付近まで追跡できる。