泉質

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宝塚温泉は表3でわかるように、生瀬・蓬莱峡とともに、有馬温泉の(三)のタイプに入る。このタイプの鉱泉は、大阪府河内長野市石仏を中心に、三日市・天見などにもある。有馬・宝塚・石仏の三地区の温泉・鉱泉について、塩素濃度とシュウ素、あるいはホウ素の濃度との関係をみると、図19のように正の相関がみられる。これ以外の化学成分も塩素とほぼ相関するが、炭酸と塩素との間には系統的な関係が認められない。
 

表3 宝塚市周辺の温・鉱泉の性質

地域宝塚生瀬武田尾有馬
種別鉱泉鉱泉鉱泉1)高温泉(天神・有明など)2)低温泉(袂石など)3)鉱泉(蛇谷・五社など)
温度℃19.516.690~9743~60Max.32.5
塩素イオン(CI)g/l1.50.80.523~412.3~311.7~33
ヒドロ炭酸イオン(HCO3)mg/l2.8402.41620260~170350~500500~2400
遊離炭酸(freeCO2)mg/l7001.280少ない多いものあり750~1300
硫酸イオン(SO4)mg/l0.804.5痕跡5~35痕跡
含炭酸食塩泉含炭酸食塩泉含食塩硫黄泉強食塩泉食塩泉含炭酸食塩泉

宝塚:中村・前田(1961),武田尾:大阪衛生研究所(1902),有馬・生瀬:鶴巻道二(1964)


 

図19 塩素とシュウ素・ホウ素濃度の関係(鶴巻道二,1964)


 これらのことから、有馬・宝塚地区には、高炭酸濃度の食塩泉があり、それが地下水といろいろな割合で混合し、湧出しているものと考えられる。有馬の高温泉については、この食塩泉が局部的な熱源により加熱され、炭酸の大部分を失って湧出しているのであり、この失われた炭酸ガスが地下水に再溶解したのが、単純炭酸泉であると解釈されている。
 宝塚には食塩泉・炭酸泉のほかに、寿楼井戸(深度一〇〇メートル)のように、ラドンを約一〇マッヘ含む放射能泉がある。生瀬橋右岸にあるウィルキンソン炭酸水工場は、明治二十三年(一八九〇)に発見された炭酸泉をもとに、今なお盛業中であるが、その泉質分析表をみると約五〇マッヘのラドンを含む放射能泉である。清涼飲料として好評を博し、また医療上の効果もあるとの世評は、ラドンの含有によるものであろう。
 このような放射能泉は、六甲山地東南麓の芦屋断層に沿って苦楽園鉱泉群として数箇所で湧出していたが、昭和十三年(一九三八)の水害で壊滅してしまった。有馬温泉で四つに分類した温泉・鉱泉群はすべて、有馬層群分布地域から湧出しているが、六甲花こう岩分布地域である六甲川の瑞宝寺谷では、放射能泉の自然湧出がみられ、放射能泉の成因としては、花こう岩中の断層破砕帯通過の際にラドンの供給を受けたものと考えている。
 武庫川峡谷には、武田尾温泉がある。含食塩硫黄泉とされているように、硫化水素臭の特徴がある鉱泉で、同様の泉質のものは、名塩谷にも自然湧出している。鉱泉に含まれる硫化物の起源としては、有馬層群の下にある古生層の泥岩中から、溶出供給されたと推定される。
 温泉・鉱泉の分布が、断層線上に配置しており、断層周辺の岩石が、湧水の影響による炭酸化・陶土化作用を受けている事実から、温泉・鉱泉の通路の役割りを、断層破砕帯が演じていることはまちがいない。宝塚周辺の鉱泉の泉質には、食塩泉・炭酸泉・放射能泉・硫黄(いおう)泉などの種類がみられるが、もともと含炭酸食塩泉があり、それが通路の大地や破砕帯の条件や、地下水混入の多少などによって変化したものと考えられる。