われわれが、いながらにして土地のありさまを知るには、地図によるか、航空写真を使うか、それとも絵画の手法で描かれた絵図をみるといった方法がある。このなかで最も広く利用されているのが地図である。地図は最近では航空写真測量によるため、ひじょうに正確なものがつくられていて、しかも誰でも容易に手に入れることができるが、これをじゅうぶんに理解するための読図に熟練を必要とすること、またその地図をつくるときの目的によって、しめされる内容にもちがいがあるため、土地のすべてのありさまを教えてくれるものとは限らない。そのうえ、立体感の乏しいことも地図の一つの欠点である。
これにくらべて航空写真は地図にはしめされていない地上の諸景観が、われわれの目で見ると同じようにしめされているし、広い範囲にわたって一枚の写真にまとめられている便利さがある。
しかし地図に比べて高価であること、実体鏡を使わねば立体視できないこと、複雑なデータを使いこなすには相当な予備知識を必要とすることなどの点で、誰にでも利用できるところまでには至っていない。
絵画的手法で描かれた絵図は、誰にでも理解でき、見た目にも楽しく美しいという特徴をもっている。特にこうした絵図のなかでも鳥瞰図とよばれる斜め上空から眺めたように描いたものは、地図のもたない立体感をしめすので、古くから利用されてきた。
しかし絵図にはどうしても描いた人の主観がはいりやすく、また正確さの点でも欠けるところのあるのはやむをえない。そこでこうした欠点を補いながら、同時に地図や写真のもつ正確さをできるだけ失わぬよう工夫して考えだされたものが、この「ブロックダイアグラム」なのである。
すなわち、絵画的な鳥瞰図の構想を取り入れながら、地図学上の透視図法を使って正確に描き、地表の景観と断面のようすを、距離の遠近から生じる長さや高さのちがいに対応させながら、正確に線描きで表現したものがこの「ブロックダイアグラム」とよばれるものである。はじめは地質と地形の関係をわかりやすく説明する目的で考えだされたものであったが、やがて広く人文現象の表現にも使われるようになった。とくに今回のように広範囲にわたって、ブロックダイアグラム図法を適用したのは画期的といえよう。
つぎに、この宝塚市域のブロックダイアグラムのできあがるまでの様子にひとことふれておこう。
宝塚の市域は、山間部が北方に長く連なるとともに、南部の平野部は翼を広げた形で東西にわたっている。このような形をした市域のすべてが、うまく画面に出るためには、どの場所から、どの方向にむいて眺めるのが最も良いのか、この点にまず苦心を払った。
つぎに描きかたであるが、作図法には一点投視図法・二点投視図法・等積図法の三種類があり、宝塚の場合は一点投視図法を使った。すなわち宝塚から一〇キロメートル離れた地点(大阪市東淀川区三国本町)の上空一万メートルの高さに視点を置き、そこから西北西の方にむかって市域を眺めたときに、目にうつる景観を正確に描き出したわけである。投影による基本図ができあがるまでの過程についての詳細は省略するが、基本図ができあがると、国土地理院発行の二万五〇〇〇分の一の地図、宝塚市発行の一万分の一の都市計画図などにより、市境・河川・道路・軌道および山地の稜線・谷線などを投影し、その高度や距離に応じ比例寸法で正しく描きだした。その表現には絵画的手法を用い、建造物などについては、航空写真を参考にした。とくにこの図は単色であるため、引かれた線の一本一本にも気をくばった。また読者の理解を助ける目的で地名を入れた薄紙をうえに重ねた。
本図の構想は地理学の渡辺久雄によるが、作図に関する作業は、すべて地図の専門家である森三蔵がおこなった。またとくに地形の表現については地質学の藤田和夫・笠間太郎の指示によった。