宝塚市史編集事業について、宝塚市から渡辺久雄に話しがあったのは昭和四十六年の春であった。三年後の昭和四十九年に、宝塚市は市制二十周年を迎えるのでその記念事業として「宝塚市史」を発刊したいとのことであった。
まず、市史編さん経験豊かな西宮市史編集者武藤誠、伊丹市史編さん委員会代表者八木哲浩と、渡辺久雄が受諾することについて話しあった。つぎに、教育委員会事務局側と具体的にこの事業の基本計画策定ならびに、各分野、各時代を分担する専門委員の人選にあたった。
翌、昭和四十七年一月、理事者側である宝塚市長を長とする編集委員会と、委嘱を受けたわれわれ専門委員との合同委員会で、基本的な事項について意見の一致をみたので正式に発足することとなった。
以来、常に心がけてきたことは、「ユニークな市史」ということであった。
第一に専門委員の選出にあたって、社会科学の面から鋭い考察を加えてみようとしたことである。特に近代・現代の分野では三名の執筆者を関西学院大学より迎え、近・現代化していく過程を浮き彫りしてもらうことになった。
第二に文献史学と考古学との連結を試みたことであった。従来の市史にみられる考古、古代を別章とする扱いをやめて、人びとのあゆみの中でとらえて関連づけてみようとした。
第三に巻頭を飾る図として新しい構想のもとに「ブロックダイアグラム」図法による市域の図化をはかってみた。この手法については解説をつけたので参照してもらいたい。
第四は本の体裁である。レザーやクロス製の表紙の多いなかにあって、宝塚市史にふさわしく和紙で表装した。近年とみにその実と名をあげている丹波黒谷の手すき紙のなかで、特に強い紙質の「もみ紙」を用いた。そして色も宝塚市がモットーとしている「まちにみどりを」に合う色としてきめた。
第五として、見返しに舞台画を採用したことである。「たからづか」の名はヅカガールと共に歌劇のまちとして世界に知られている。豪華絢爛(けんらん)の舞台に繰りひろげられるたからづか乙女の歌とおどりは、老若男女を問わず心を奪われる。そこで、歌劇団にあってその舞台画に長年の経験をもつ黒田利邦に依頼して、全巻それぞれの場面を設定し描いてもらった。
なお、第一巻の専門分野について専門委員・特別執筆者以外で、執筆にあたっての協力者、あるいは助手として調査や研究に従事した人びとの氏名を記して謝意を表したい。
担当分野 氏名
地理 井上寛和
地質 粉川昭平・鶴巻道二・前田保夫・塩野清治・吉田久昭
考古 葛野豊・福井英治・小林謙一
古代 福島好和・小西徹・松原弘宣・玉田弘美
中世 藤村倫子・棚橋光男
おわりに、この格調高い市史ができたことは、河北印刷株式会社のすぐれた印刷・製本の技術と熱意に負うところが多い。ここに改めて感謝したい。
市史編集専門委員
代表者 渡辺久雄