村の中の家々の関係には、日常の生活におけるものから非常の場合の助け合いにいたるまで種々の相互扶助関係があるが、分家がまず頼るのは本家であり、本家も分家の助力を期待する。本家も分家も特別の場合を除いて自立の生活が可能となるならば、相互扶助は隣り近所との間にもおこなわれるが、あまりにも日常的な関係は記録に残されないので想像するよりほかに仕方がない。冠婚葬祭や子どもの誕生などの特別の場合は記録に残されているのでわかるのであるが、近い親類と近所との関係が深いのである。近所は、制度としては村の中にある小組である什組に編成されていた。
しかし土地や金銭の貸借・売買の関係では、土地を持った有力な家と無力な家との間に結ばれることは当然であるが、有力な家が村の外にある場合、このような関係は村の枠を破って結ばれることになる。しかしそれを保証するのは一家や親類であることはすでに述べた。
村の家々の関係で重要なのは生産における関係である。これには家々の個別農業経営における手間がえや手伝(てつた)いあるいは雇用被雇用関係があるが、村の生産体制として重要なのは村の水利組織であり水利慣行である。ところが、これは年々繰返し定まった慣行によっておこなわれ、あまりにも日常的であるため、部分的に特に改める点以外は詳細な記録がないのが普通である。したがって実地について調べることができた段階のものを資料編にかかげることにした。ただここで一言しておきたいことは耕地の隣接関係と用水の共同利用が地縁関係として重要なことを指摘しておきたい。また家々の諸関係についてはのち(第四章第四節)に詳述するので、それから遡(さかのぼ)って推理されたい。