市域内で阪鶴鉄道敷設のために、用地買収がおこなわれたが、現在その状況が判明するのは小浜村と長尾山についての二件である。
小浜村米谷では明治三十一年十二月一日、共有の溜池二つ(反別一歩と五畝一三歩)を買収代金一七二円で売却することが、小浜村村会で決定した。これにもとづき阪鶴鉄道伊丹建築事務所用地掛りと小浜村長との間で、土地売買随意契約書がとりかわされた。米谷では前年に水害があり、その災害補償のために協議費がかさんで不足しているので、この売却代金を協議費に充用する旨が協議され、決定した。
また長尾山については、明治三十二年八月に、川辺郡西谷村のうち切畑ほか四八のむらの共有山林五町四歩を、鉄道線路敷設工事に必要なため、阪鶴鉄道に譲渡することに決定した。その土地収用補償金額見積書について、共有山林管理者間で協議するため、会社側より提示された収用補償金額は三七八円八五銭であった。このとき四八のむらの共有山林管理者の代表として、川辺郡西谷村・長尾村・小浜村・稲野村・園田村・伊丹町・神津村・多田村、武庫郡良元村・武庫村、豊能郡池田町・北豊島村の各町村長が集まり、協議決定のうえ、九月五日、川辺郡長立合いのもとに会社側との仮契約書に調印したのである。