新温泉の施設

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新温泉は、旧温泉の和風に対しハイカラな洋風で、総建設費三〇余万円の東洋第一の浴場といわれた。最初は大人五銭・小人二銭の入場料を払い、建坪約二〇〇坪の建物の玄関を、履物(はきもの)を預け、草履をはいて入ると一面花模様の絨緞(じゅうたん)が敷かれた大広間で、左右の両室には椅子・テーブルがあり、左は男客、右は女客の休憩所であった。左右に分かれた廊下を行けば、脱衣場があり、浴室は大理石などを並べ敷いた美しい浴場であった。納涼台の設備もあって、武庫川の川風に涼を入れながら旧温泉を眺めることができた。栄町の子どもたちも洗面道具をもって大浴場に入り、歌劇をみて帰った。化粧室や涼み場を備えた特別風呂も設けられ、家族温泉とよんだ。廊下を左に行くと、みやげ物売場があり、さらに左に折れるとパラダイスと称する娯楽館で、めずらしい娯楽設備があった。音楽室にはピアノなどがあり無料で使用できた。接待室(レセプションホール)や陳列室は約一二〇畳敷の広さで、各種集会や展覧会に便利であった。

写真141 新温泉とパラダイス 明治末期 (福井文子提供)