調停特別委員会は、十二月十四日から四回にわたって開かれ、両者が円満に妥協するよう種々斡旋の労を重ねた。最後の調停委員会は二十四年一月十五日に良元村役場で開かれ、翌十六日朝五時に仮調印にこぎつけ、一月二十四日県庁において正式の調印式をおこなった。覚書の内容はつぎのようなものであった。
武庫郡良元村仁川元川西航空機株式会社宝塚製作所跡地の離作につき武庫郡良元村及び京阪神競馬株式会社(甲)と武庫郡良元村耕作者同盟(乙)とは、兵庫県農地委員会の調停により左記の通り契約を締結する。すなわち(一)養豚施設費として金百八十万円、(二)作付補償として金百四十五万円を交付し、これと同時に現地は有姿のまま明渡す。(三)金一封として金二十万円を交付。(四)競馬場構外の甲所有地内の指定の場所で、乙加盟員が営業を目的とする売店経営を優先的に認める。(五)競馬場施設敷地外の空地は出来る限り乙に耕地として賃貸する。(六)競馬場工事施行に際しては出来る限り乙に属する業者を下請に使用するよう斡旋する。
紛議を重ねた問題も以上によって解決するに至ったのである。
二十四年五月総司令部天然資源局は右の実情調査を農林省農地局に命じた。それに対し農地局長名でおこなった報告の結論は、「この競馬場用地について技術的なる見地より公平に調査せる結果、如何に耕作者の立場にたって考えても、関係地を農地並びに開拓適地とすることはできない。故に現在の競馬場設置計画に対しては、農地局としては反対する理由の根拠がない」と述べている。なおこの点に関して、農林省農地部長は兵庫県農地部長に対して、「競馬場を設置することに対しては何等意志表示をしたものでない」と念書を送った。その後同年十一月初旬、覚書の(五)につき紛争が生じ当事者双方から調停申請があったので、数回の協議の結果十一月十四日に調停が成立し、調停委員会の任務はすべて終わったのである。